水溜りボンド・カンタ×奥山大史による対話 “似て非なる”ものづくりのスタイルと思考のルーツや変化

水溜りボンド・カンタ×奥山大史対談

カンタがエジプト旅行で学んだこととは?

奥山:映画は、みんなが知る原作で、みんなが知っているスターが揃っているのに、大コケ……とかがあり得るんですよね。やっぱり人間はどこかで、未知なものを求めているのかなって。

カンタ:たしかに、新しい感覚になるものって残るよね。

奥山:カンタさんは、映画を撮りたいとは思わないんですか?

カンタ:うーん……映画って、利き手じゃない手で野球をさせられているような感じになりそうだなぁ。でも、僕自身が経験したことだったら……。いや、やっぱり、いまのところはないかな。

奥山:利き手じゃない手で野球をするって感覚、すごい分かります。僕、このあいだ、YouTubeに載せるDVD発売告知動画を作ったんですよ。その編集に2週間くらいかかっちゃって(笑)。それでも、再生回数は3000回くらいで「もーう、全然分かんない!」ってなりましたから。

カンタ:時代の波を捉えるのってむずかしくなってきているよね。僕たちが子どもの時って、共通の話題があったじゃん。「あの人気バラエティがさ〜」とか。でもいまは、この人にとっての有名人はこの人だけど、隣の人にとっては違ったり。

奥山:たしかに。国民的スターが生まれにくくなっている気はします。

カンタ:だからこそ、ちゃんといいものを作っている人が評価されてほしいなって。そういう人たちが、ちゃんとクオリティが重視される世界に引っ張ってくれたらいいなと思う。もちろんみんなヒットしなきゃ! という焦りがあるのは分かるんだけどね。

奥山:僕も、作り続けなきゃな。

カンタ:野球でたとえるとさ、ヒットの構えとホームランの構えって違うわけじゃん。映画を作る上で、ここは思い切り振ろう。ここはバントにしようとか、そういうことは考えているの?

奥山:1回1回、当たるかわからないけど、必死に振ってる感じです。振り方が合ってるか分からないけど、とにかく振り切るぞ! みたいな。

カンタ:どのくらいのペースで作るのがしっくりくるの?

奥山:3年に1本が理想ですね。でも、このままいくと5年に1本とかになりそう……。その間は、MVや広告を作ったりしています。2〜3年映像制作から離れると、感覚を忘れちゃう気がして。MVや広告も、映画と同等の本気度で挑んでいますが、そういった点では修行とも言えるのかもしれません。

カンタ:修行って、ほかにはどんなことをしているの?

奥山:物ごとの観察だったり、自分を掘り下げていったり。映画は、ヒットの法則みたいなものがあまりないんですよね。「これがヒットしたから、同じような作品を!」と思っても、同じような作品は求められていないわけで。だから逆に、成功例を見ないというか。まずは自分の内側にあるものを見るのが大事なのかなって。

カンタ:人間ってこういうものだ! みたいなことを考えていく感じ?

奥山:何か価値観を覆せるような作品を作れたらいいなというのは常に考えています。本当に極論かもしれないですけど、「残虐なことをしてはいけません」みたいな言わば当然のことは、数秒でも伝える方法があるんですよ。ただ、当然のことって、言われなくても皆分かっていることがほとんどじゃないですか。せっかく2時間かけるなら、「こういう思いをして、こういう状況に置かれたら、自分でもこんな残虐なことしちゃうかも」とか。そこまで考えを持っていかせることができたら、それに伴う結果も併せて描くことで、いざ同じような状況に陥ってしまった時、そういう行動に出ないようにできるかもしれない。それは映画にしかできないことかも……と思っています。

カンタ:違う視点だからこそ面白いなぁ。僕が普段話す人たちは、こういう話はしないから。それこそ、ここまで深いことを伝えたい! と思っている人がYouTubeをやっていたら、動画を作れなくなっちゃうと思うんですよ。

奥山:でも、映画もまずは興味を持ってもらえなかったら、席についてもらえないので、YouTubeクリエイターの人たちが向き合っているロジックのようなものも、これからは特に大事になってくるのかなと思います。監督によっては、自分をコンテンツ化することで集客を呼び込む人もいますが、自分にはできないので、どうすれば多くの人が興味を持ってもらえるか、勉強しなきゃなと思います。

カンタ:さっき話していたけど、テレビのバラエティはどんなものを見るの?

奥山:今一番好きなのは、『水曜日のダウンタウン』(TBS系)ですね。大学生のころにYouTube毎日投稿していたカンタさんを見て、「どうやって企画作ってるんだろう」と思ったのと同じで、「週1ペースでこんなに面白い番組を作れるのってすごすぎでしょ!」って。規制も多いなかで、あの面白さを保てているというのも含めて。テレビって、いつも何らかのコンテンツが流れているわけじゃないですか。映画を作っている自分からすると狂気の沙汰なんですよね。

カンタ:その感覚、すごく分かるな……。

奥山:カンタさんが最近気になっているものも教えてほしいです。

カンタ:俺は、最近すごくジブリのことを調べてる。自分が映像会社を作ったのもあって。鈴木敏夫さんの書籍とかも読むし、子どものころに見ていた作品を、いま見たらどう感じるんだろう? と思って、また見てみたり。ジブリって、日本の誇るべきコンテンツだと思っているの。それこそ、“外れたら死ぬ”くらい追い込まれた状況のなかで、あれだけ高クオリティなものを出し続けられるのってすごいなって。10年走り続けてきたけど、まだ背中さえも見えないもん。

奥山:僕も『ポニョはこうして生まれた。(〜宮﨑駿の思考過程〜)』という12時間くらいあるドキュメンタリーを見たことがあるんですが、とても勇気づけられました。その時、宮﨑駿さんが「ヘボが作る映画はヘボなんだよ」と言っていたのが響きすぎて、メモしちゃいました。あと、「結局僕は映画の奴隷なんですよ」とかも、おこがましいけど分かるなぁ、もっと分かるようになってみたいなぁ……って。そういった言葉たちは、最初に話したような、ものづくりをする時の孤独に寄り添ってくれています。

カンタ:あと、最近は本も読むようにしてるし、年末はエジプトに行った。

奥山:なぜ、エジプトをチョイスしたんですか?

カンタ:2万年前から残っているものってどんな感じなんだろう? って興味が湧いたからかな。ピラミッドって、六本木ヒルズくらいの大きさがあって。4世代くらいかけて積み上げたって考えると、2、3世代目の人って何を作っているのか分かっていないと思う。でも、そのなかで、空気孔とされていた穴があって、その穴は外まで伸びていて、当時はピッタリ北極星を指していたんじゃないか? とか。あと、3つ並んでいるピラミッドの影は一直線になるとか。本当か分からないけど、もし本当だったとしたら、あのころの人たちにとってそれを追い求めることが大事な価値観だったはず。そう考えると、自分が見ている世界ってとてつもなく小さいのかなと思えてきて。

奥山:旅でのインプット、いいですね。このペースでどんどんAIが進化していくことを考えると、人間にしかできないインプットをしていかなければならないわけじゃないですか。旅をして現地でいろいろなことを考えるとか。そういう足を動かすことによるインプットがより大事になってくるかもしれないですね。

カンタ:ちなみに、エジプトでは動画を回さなかった。泣きそうになりながらカメラのボタンを押さないでいるのは初めての経験でした(笑)。生配信で、「ピラミッドだぜ!」って言いながら、そのまわりにいる人たちと面白い掛け合いをして、チップを渡せば、本来はみんな幸せじゃん。でも、回さないからこそ、考えさせられることがあった。自分と向き合うためには、カメラを止める時間も必要だなって。

ーー昔のカンタさんが聞いたら卒倒しそうなコメントですね。

カンタ:確かに(笑)。僕が動画を出すことで、たくさんの人が喜んでくれることに対する感謝は揺るがないけど、そういう時間も大事だなというふうに考えられるようになってきたってことです。

奥山:旅はやっぱりいいですね。改めて、今回カンタさんとこうしてゆっくりお話しできてすごく楽しかったです。

カンタ:こちらこそ! またどこかでゆっくり話しましょう!

■インフォメーション
映画『ぼくのお日さま』
2025年8月2日(土)Blu-ray & DVD発売
絶賛予約受付中!
Blu-ray : ¥6600 (税込)
DVD : ¥5500 (税込)

出演:越山敬達、中西希亜良、若葉竜也、池松壮亮
監督・撮影・脚本・編集:奥山大史
音楽:佐藤良成(ハンバート ハンバート)
主題歌:ハンバート ハンバート「ぼくのお日さま」
発売・販売元:マクザム

アイスホッケーが苦手で、ことばがうまくでてこない少年。
選手の夢を諦め、恋人の地元でスケートを教えるコーチ。
コーチのことが少し気になるフィギュアスケート少女。
田舎街のスケートリンクで、3つの心がひとつになって、ほどけてゆく――。
雪が降りはじめてから雪がとけるまでの、淡くて切ない小さな恋たちの物語。

 ⚫︎映像特典
・Making of ぼくのお日さま - 聖なる記憶にふれる -
・『ぼくのお日さま』 渡航記 - はじめてのカンヌと生牡蠣と –
・ ジャパンプレミア
・日本外国特派員協会記者会見
・日大芸術学部ティーチイン
・又吉直樹 × 佐藤良成 × 奥山大史 スペシャルトークショー
・ 劇場マナー講座+予告編4種

⚫︎音声特典
オーディオコメンタリー(越山敬達×中西希亜良×池松壮亮×奥山大史)
© 2024「ぼくのお日さま」製作委員会/COMME DES CINÉMAS

「MVは大喜利だよね」映像作家・関和亮と水溜りボンド・カンタが捉える“映像表現の面白さ”

水溜りボンド・カンタの連載企画「クリエイティブの方舟」がスタート。第2回は、映像作家の関和亮が登場。今回は、2人が異なる視点で“…

関連記事

リアルサウンド厳選記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「連載」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる