水溜りボンド・カンタ×奥山大史による対話 “似て非なる”ものづくりのスタイルと思考のルーツや変化

水溜りボンド・カンタ×奥山大史対談

MVとYouTube、MVと映画ーーカンタと奥山大史の“つくりかた”の違い

ーーカンタさんはYouTube動画を作りながらMV制作を、奥山さんも映画やMV、広告関連の映像と多くのアウトプットを持っていますが、その違いについてはそれぞれどう考えますか?

カンタ:作り方の方向性がまったく違いますね。YouTubeは、岩から彫刻していくイメージなのね。素材をドカンと撮って、彫刻みたいに削っていく感じ。その先に、ライオンが出てくることもあれば、ただの丸い石が出てくることもある……みたいな。それを探しながら作っていくのがYouTube。MVは、自分のなかに作りたいものが明確にあって、そこに向かっていく感じだから、正反対だなと思う。

奥山:その例えでいうならば、僕にとっては、MVの方が彫刻ですかね。アーティストという圧倒的な存在がいるわけで、いわば一種の答えが作る前から見えてはいる。それに向けて、どこを削ぐか、どこを強調させるか、と考えながら、かたちを整えていく感覚に近い気がします。

カンタ:面白い! じゃあ、映画は?

奥山:うーん、似ているところも大いにあると思います。でも映画は全く答えなんて見えていないままに走り出して「さて、どんな彫刻を掘ろうかな?」と材料探しから、道具探しまで、すべて1から始めていきます。ちょっと話が変わっちゃうんですけど、カンタさんって、企画を思いついて、その日のうちに撮影してすぐに出す……みたいなことはいままでありましたか?

カンタ:昔の毎日投稿の時は、それしかやってなかったよ。当時は“20時投稿”って決めてたから、朝起きてからずっと時限爆弾を背負っている感じだったのよ。それこそ、100万人以上が「今日の水溜りボンドはどんな動画を出すのかな?」と思ってくれているわけじゃん。普通の大学生のためにそこまで期待をしてくれてるって考えたら、「何か面白いものを作らないと!」って。

奥山:それは、かなりプレッシャーですね。

カンタ:うん。何も思いつかない日は、「ケガしようかな」とか。追い詰められると、「どうにかしてでも話題がほしい」みたいな思考回路になっていくのね。それこそ、“おでんツンツン男”とかいたじゃん。ああいう風に魔が差しそうになる瞬間は自分にもあった。でも、それをしないでこられたのは、「親が見た時に悲しむかな?」とか、「身近な人にも喜んでもらえるような動画を作りたい」という気持ちがあったから。そのおかげで、道を踏み外さなかったんだと思う。

「再生回数が多いもの=いい動画」というわけではない

奥山:映画って、企画してから脚本執筆、撮影、編集、公開といったすべての工程が終わるまでに、かなりの期間を要します。僕の場合は4年くらいかかるんですよ。カンタさんからすると、ひとつの動画に4年かけてる人ってどう見えてるんだろうなぁって。費用対効果も時間対効果も最悪なのは分かってるんですけど。

カンタ:いやいや、それだけの時間をかけるからこそ、観ている人もしっかり向き合おうという気持ちになるんだよ。だって、僕が毎日アップしている動画で投げられる球の硬さって、決まってるもん。やっぱり、時間をかけて練られるわけじゃないから。

奥山:なるほどなぁ。

カンタ:映画は、伝えたいメッセージが明確にあって、そこに向かって作っていくわけじゃん。YouTubeの場合は、「まさかこんなところに辿り着くなんて!」というところに面白さがあると思ってる。

奥山:たとえば、いままでどんなことがありましたか?

カンタ:うーん。カーナビを無視して走ろうっていう企画をやった時、最後に「ネバーランド」っていう名前のマンションに到着したの。

奥山:それは、ちょっとじわじわ来ますね(笑)。

カンタ:でしょ? あと、「当たりつき自販機を、当たるまでやろう!」っていう企画の時は、いつまで経っても当たらないから、もうまわりが缶だらけになってたの。そしたら、「買ってもいいですか?」って人が来て、「あっ、すみません。どうぞどうぞ!」って俺たちがはけた瞬間、その人が当てちゃうみたいな(笑)。

奥山:まさに映画のような展開ですね……!

カンタ:あの時は、観客目線で「うわぁ、いちばんいい席で見ちゃった〜」って思ったもん。ただ、年数を重ねるごとにプロデューサー脳が強くなってきたのが悩みで。毎日Googleのアルゴリズムと戦ってきたから、「当てに行くぞ!」という感覚になっちゃってるんだよね。テンポ感が遅かったから見てもらえなかったのかな? と思ったら、次の動画ではテンポ詰めちゃったり。

奥山:YouTubeって、しゃべっている時の間とかも全部削ぎ落としていきますもんね。あれって、間があると離脱者が多いとか、実際に数字で出ているからなんですか?

カンタ:うん。離脱のタイミングとかで分かる。だから、ある意味で「答えがある世界」なんだよね。それこそ、スワイプしづらい動画を作ろうと思えば作れてしまうわけで。YouTube市場も飽和状態になっているからこそ、どんどん過激になっていくわけじゃん。そこらへんは、ちゃんと考えていかなければいけないなって。「再生回数が多いもの=いい動画」というわけではないのは、視聴者さんに伝わっていてほしいな。

奥山:自分も、広告の仕事をやる時は、そういう考えになる時があります。「とにかくたくさんの人に見てもらわなきゃ!」って。たとえば、YouTubeの動画が始まる前のバンパー広告って新人が任されることが多くて、僕も携わったことがあるんです。その時、「6秒でいかに情報を詰め込めるか?」とか、「どうすればスキップせずに見てもらえるか?」とか、すごい考えたんです。それと同じようなことを、YouTubeクリエイターの方たちは常に悩んでいるんだろうなって。

カンタ:そうそう。ただ、ずっとやってきたことだから、「目を惹くだけの動画を作れ」と言われたら、トップクラスにできるはずなんだよね。人間がどんなものに目を奪われるかがだいたい分かっているから。

奥山:たとえば、どういったものに奪われやすいんですか?

カンタ:ものが落ちる瞬間とか。重力って、人間にとって不思議なものなんだと思う。あとは、完全な球体にも目がいきやすい。四角とかよりも。

奥山:だから、みんなアルミを丸くしていた時期があったのか……!(笑)

カンタ:でもさ、奥山くんが4年かけてやっていることって、広大な土地でゴールが分からないまま走り続けている感じでしょ? 答えがない世界だからこそ、一歩目から間違っていました……なんてこともあるわけで。僕はその規模でやったことがないから、どんな感覚なのか気になる。

奥山:映画はYouTubeと違って、席にさえついてもらえば、なかば強制的に観てもらえるんですよね。そうなると大事なのは、見続けてもらうことよりも、普段は見逃してしまうようなことをきちんと映像に焼き付けることだと思っていて。とくに僕は、普段忘れていたことや、忘れちゃうような感情を思い出させてくれるような作品に価値を感じるところがあるので。そのあたりを意識して、作品と向き合っているかなぁ。

カンタ:いま、すごく腑に落ちました。そんな感覚なんだ。

奥山:僕はYouTubeやテレビのバラエティ番組もよく見るんですけど、感覚は全然違うんだろうなと思っています。でも、違うからこそ作っている人に対して興味が湧くんですよね。

カンタ:僕、気づいたら宇宙と会話している時あるよ(笑)。黄色が注意喚起のものに使われているのはなんでだろう? とか、赤に潜在的な恐怖を感じるのはなぜ? とか。

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