週刊記者・“奏”川口春奈の妹はなぜ性加害に巻き込まれたのか? 芸能界の闇が明らかに『スキャンダルイブ』5話

「どんな事件やニュースも他人事じゃない。自分の大切な人が、いつ被害者になってもおかしくない。だからこそ私たち記者は、事実を明らかにして伝えなきゃいけない。“今更”ですか?」
性加害に、時効はない。これが、12月17日公開のABEMAオリジナルドラマ『スキャンダルイブ』5話にて提示された、最大のメッセージである。過去4話の顛末をすべて振り返るかのように、オンエア前半では平田奏(川口春奈)の妹=莉子(茅島みずき)による上京後の回想シーンがフィーチャーされた。
奏ばかりを贔屓する両親に、自分にしかできない方法で存在を認めてほしかった。その一心で飛び込んだ芸能界。莉子はすべからく周囲の環境に恵まれず、幸運にスカウトされた先も、芸能マネジメント詐欺のような業態だった。月額30,000円以上のレッスン料を払えど払えど、一向に正所属には昇格させてもらえず。3年間、事務所の“養分”として扱われた後、最後のチャンスとして挑んだKODAMAプロダクションによるオーディションでも、最後までスポットが当たることはなかった(悲しい話だが、本人にそもそものタレント特性すらなく、単純に“カモ”とみなされてスカウトされた可能性すらある)。
そこから、レッスン料を稼ぐための水商売バイトに、当時のオーディション仲間からの誘いで飛び込んできた、大物俳優=麻生秀人(鈴木一真)との“コネ飲み”。本当にわかりやすく転落人生を歩んでいってしまう。人が人に憧れる純粋な気持ちにつけ込み、芸能界は人の夢を食い物にする、とは奏が以前に残していた旨だが、まさしくその通り。莉子の回想シーンを見て浮かんできた言葉だが、自身の妹の人生がまさか知らぬ間に当て書きのような変貌を遂げていたなんて。
件の“コネ飲み”が、巷で噂の“ギャラ飲み”だったのか。さらには、オーディション仲間が麻生とも最初から“グル”だったのか。そのあたりが今後に明かされるかはわからぬものの、麻生は莉子の相談に乗るフリをして、気づけば会場だったホテルの一室でふたりきりに。
本当に最悪だが、酒に酔わせて行為を始め、彼女が正気を取り戻したときには「じゃあ帰れば? その程度の覚悟なんでしょ?」と突き放す。かと思えば、「ウソだよ、ちゃんと相談にのるから。“莉子ちゃん”のために、人も紹介できると思うし」と、どこかで聞いたことあるような言葉巧みぶりは“飴とムチ”のよう。気づきづらい部分ではあるが、麻生が彼女の芸名である平山梨沙ではなく「莉子ちゃん」と本名で呼んでいたあたりも、距離感がバグっていてなおさらに胸糞が悪かった。
翌朝、麻生がホテルを去る際、莉子がベッドから力なく呟いた「お疲れさまです」。仕事でもないはずなのに、“お疲れさまです”。妙な違和感を覚える描写だ。こうした所業が芸能界においては業務の一環として当たり前であるかのように。芸能界を知らないはずの莉子が、まるでそうしたすり減った側面だけ知っているかのように。
結果、麻生や彼の所属するKODAMAプロダクションから、約束の連絡は一度もなく。自身の事務所に打ち明けたとて、KODAMAプロダクションとは揉めたくない。面倒ごとを持ち込まないでほしいし、勝手に色仕掛けをして失敗しただけ。“性加害”なぞ、体のいい言葉でしかないとの一点張り。言わずもがな『週刊文潮』に助けを求めたとて、KODAMAプロダクションとの癒着はこれまでに散々語られている通りなのだから、無意味でしかない。『週刊文潮』を選んでしまったのも運が悪かったのだが、本当に八方塞がり。以上が、麻生告発を目指し、莉子への取材を通して奏が5年越しに知った実妹の悲劇だった。
冒頭に記したが、性加害に時効はない。昨今の芸能界でも同様の事象が取り沙汰されている点も含めて、我々の実生活に対しても一石を投じ、自身の視点を捉え直す機会としてほしいといったメタ的な問いかけがなされていることには1話の時点からすでに気づいていたが、莉子のケースをもう5年前と捉えるか。あるいは、されど5年前なのか。きっと、世間は前者と捉える傾向にあるだろう。
実際、ドラマ内でも同様の線でエピソードが進む。井岡咲(柴咲コウ)、平田姉妹が“作戦会議”している情報をキャッチした、KODAMAプロダクション社長の児玉蓉子(鈴木保奈美)。“近藤”なる人物に電話を掛けた後、莉子の自宅で同様の名前を名乗る怪しげなフリーライターが姿を見せる。彼曰く、これまた昨今の“#MeToo運動”に便乗し、ありもしない性加害をでっち上げて、売名と示談金の巻き上げを企てている連中がいる。もしかすると、莉子の場合もそうなのでは?、と心ない言葉を彼女にぶつけるのだった。
すると翌日、この内容がウェブメディアにすぐさま掲載。紙媒体である『週刊文潮』などとは異なり、このスピード感がウェブ独自の強み。いわば“置きアンサー”を用意されてしまったことで、平田姉妹はなにもできないうちに莉子は誹謗中傷の的になってしまうのだった。これ以降に告発記事を出したとて、信ぴょう性を疑われるのは既定路線。さらに、奏の知らぬ間に、莉子はSNSに反論ポストを投稿。おまけにOD(オーバードーズ)で自室で倒れてしまった。
考えうるなかで、最悪のシナリオを辿ってしまっている『スキャンダルイブ』。唯一の救いだったのは、咲が5年前の事件を歴とした性加害と認識し、「莉子さんが自分を責める必要なんてないんですよ」と、強く主張してくれたこと。莉子自身も「初めて、そんなふうに言われました」と、背負っていた重荷を下ろすように呟いていたが、とはいえ前述の通り、現状は最悪の事態に陥っている。
“時間が解決する”という常套句をなぞるように、莉子は劇中、表面上は普通の生活を取り戻しながらも、街中で麻生が映る映像を観るだけで立っていられないほどのフラッシュバックに襲われていた。本稿の最初に記した「どんな事件やニュースも他人事じゃない」から始まるセリフは、奏がこの事実を誰よりも先に知っていた二宮涼(柳俊太郎)に対して、同じ記者、そして莉子の“家族”として想いをぶつけたものである。苦しむ莉子の姿を見ても、軽率に“今更”なんて言えるのだろうか? ぜひ、読者自身も胸に問いかけてみてもらいたい。




























