「MVは大喜利だよね」映像作家・関和亮と水溜りボンド・カンタが捉える“映像表現の面白さ”

水溜りボンド・カンタ×関和亮対談

 400万人超えのYouTube登録者を抱えるチャンネルのブレーン的役割を担い、「佐藤寛太」名義でミュージックビデオなどの映像作家としても目覚ましく活躍する水溜りボンド・カンタと様々な業界のクリエイターが、クリエイティブの源流を含む創作論について語り合う連載企画「クリエイティブの方舟」。

 第2回は、映像作家の関和亮が登場。Mrs. GREEN APPLEやサカナクション、Perfumeなど数多くのアーティストのミュージックビデオを制作するほか、TVアニメ『らんま1/2』オープニングムービーやテレビCMなど、幅広い実績を持つクリエイターのひとりである関は、カンタにとっては憧れの存在でもあったという。今回は、2人が異なる視点で“面白い映像”とは何なのかを突き詰めていく。

「生意気なやつがきた」 不安げななかにも垣間見えた“自信” 

ーーお2人が知り合ったのは、どういったきっかけだったんですか?

カンタ:僕からのラブコールです。弟子入りとまでは言わないですけど、それくらいの意気込みで「お会いしたいです」と関さんにメールしました。7〜8年前かな。昔からMVや音楽が好きだったんですが、いつもいいなと思う作品は関さんが監督をされていると中高生時代に気づいて。僕が映像学部を選んだきっかけでもあります。

関和亮(以下、関):初めてお会いしたとき、まだ大学生だったもんね。

カンタ:卒業間近のタイミングで、MVとか映像にも挑戦したかったので思い切って連絡させていただきました。

関:「どうやったらできますか?」みたいな感じだったね。

カンタ

カンタ:よく考えたら失礼な話ですよね。逆にいまの方が緊張してます。あのころはYouTubeで毎日動画を投稿をしていて、日々消費され上書きされていく感覚があって。YouTubeクリエイターだから映像制作にはいけないんじゃないかという“映像コンプレックス”をもっていた時期でした。

関:YouTubeに寄りすぎちゃうんじゃないかなみたいなこと?

カンタ:そうですね。YouTubeクリエイターが映像を撮ることに対して、世間からの風当たりもあるし、自分はYouTubeクリエイターだから、この人生をまっとうした方がいいのではないかと思っていて。でも映像は絶対にやりたいし、YouTubeクリエイターだからこそ作れるものもあるんじゃないかと悩んでました。

関:たしかに悩んでた感じもあったけど、謎の自信もあったよね。僕が「YouTubeで企画、撮影、編集するのも大変だと思うけど、MVは1か月単位で時間がかかるし、想像以上に大変だよ」と話したら、「でも気持ちさえあればできると思います。僕、毎日投稿やってるんで」みたいな感じで。生意気なやつだなと思いました(笑)。

カンタ:ヤバい奴ですね(笑)。ただそれで実際にやってみて、挫折というか、いままでにない感覚を味わいました。YouTubeと違うのは当然覚悟してたけど、根本の作り方からまったく違って。好きだからやりたいけど、どうしようって。

関:でもすでに作品をひとつ作っていて、僕に見せてくれたよね。全然できてたし、なにがダメなんだろうと思ったけど。

カンタ:「いいじゃん」って褒めてくれましたよね。でも本当は「YouTubeクリエイターがそんな簡単にMVなんて撮れるもんじゃねえぞ」って言われることを期待してました。突っぱねられた方が、「1から教えてほしいんです」って言えるから。

関:そっか、そんなこと言ったか。

カンタ:それでも褒めてもらえたことはうれしかったですけどね。

関和亮

関:でも僕のキャリアも王道ではないんですよね。最初はドラマの仕事からスタートして、その次のデザイン会社では平面の仕事をしてたんです。だけどMVを撮りたいと周りに言い続けて、そこから広げていって。当時も先輩や同世代にすごい人たちがいっぱいいて、人と違うことをやらないとダメだと思って、自分のスタイルを探していた感じ。僕が映画を撮ってるのも、MVの監督としては珍しいと思ったからだし。だからこそ、異業種の人がMVを作ることに寛容なのかもしれない。お作法や常識にとらわれすぎない方が面白くなると思ってるから、「YouTubeクリエイターがMVを作る? 最高じゃん!」って感じだったね。

カンタ:関さんの作品は、構図などの技術ももちろん素晴らしいんですが、圧倒的に面白くて、観終わったあとの満足感がすごいんです。いまのお話を聞いてても、僕のやってきたことを面白がってくれそう、と思ってたのかもしれない。

関:当時のカンタ君は、YouTubeっていう新しいメディアの新しいコンテンツを作っている認識だったので、むしろいろいろ聞きたいなと思って会いました。

カンタ:うれしい。そう思っていただけただけで、僕はYouTubeをやっててよかったです。

関:昔はこんなに謙遜してなかったけどね(笑)。

カンタ:いやもうあのころはおかしくなってました(笑)。

関:でもそこが良かったですよ。新しいものを作っていくには、自信とか、それが勘違いでもいいと思うんだけど、そういう勢いがいろんなことを進めていくんだなとすごく感じました。

カンタ:あの日、関さんにお会いして、止まってた人生が動き始めたような気がします。もともとそんなに表に出たいとは思ってなかったんですが、たくさんの人に見てもらえて、こんなに幸せなことないし、もっと頑張らないとと思っていて。でもYouTubeに出れば出るほど、「映像制作はいつかできるんだろうか」とどんどん不安になってた時期だったので、すごい勇気をもらえました。 

関:いろんな顔を持ってるイメージだった。大学に行きながらお笑いのコンビも組んでいて、YouTubeクリエイターもやってますみたいな。すごい子が来たなと思いました。

カンタ:お笑いも映像も大好きで、この2つを掛け合わせたら自分の強みになると考えてたんですけど、そこで認められていくほど、映像作家さんへのコンプレックスが肥大化していきました。

ーーハイブリッドだからこその悩みですね。

カンタ:若手芸人さんと会うときはつまんないと思われたらどうしようと悩むし、カメラマンさんと会うときは中途半端だと思われないかなと悩むしで、中間を取った罪悪感があって。

関:でも僕の印象としては、「命かけてYouTubeやってます」という感じでしたよ。

カンタ:この道を走り抜くんだ、みたいな気持ちはありましたね。当時もいまもですけど、YouTubeクリエイターで映像が好きな人って実はほとんどいなくて、孤独感は常にありました。映像にこだわっても誰も見てないなと感じて。YouTubeの場合、むしろ手ぶれがあった方がリアルで面白かったりするんですよ。技術を取り入れない方がいいんです。

関:そういえばあのとき、「映像のクオリティが上がれば上がるほど、面白さが減ってく」って言ってたね。当時はいろんなジレンマを抱えてたんだね。

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