生成AIをそのままレポートに使ってもOK? 世界の教育現場における生成AI活用ガイドラインの現状

教育現場における生成AI活用ガイドラインの現状

アメリカで重視される「適応的教育」とは?

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 では、海外においてはどうだろうか。アメリカの教育現場における生成AI活用ガイドラインは2023年5月23日、アメリカ合衆国教育省の教育テクノロジー室(Office of Educational Technology)から「人工知能と教育と学習の未来」と題された文書で示された。

 同ガイドラインの主張を要約したハンドアウト(配布資料)では、教育現場における生成AIとは「自動掃除機」のように教師や生徒の活動を完全自動化するものでははなく、「電動自転車」のように人間の活動を強化すべきもの、とその基本的位置づけが明記されている。
〈出典:Artificial Intelligence and the Future of Teaching and Learning, Handout: AI and the Future of Teaching and Learning

 以上に述べた二か国における生成AIの基本的位置づけから、たとえば生徒学生が「生成AIの出力をそのまま自分の表現として流用する」ような活用法が否定されるのは、日本とアメリカに共通している。

 その一方でアメリカのガイドラインにはあって日本のそれにはない論点として、生成AIは教育における「適応性(Adaptivity)」を強化する、というものがある。この文脈における「適応性」とは、生徒一人一人に合わせた指導が可能となる教育の柔軟性を意味する。こうした適応性は、障がいのある生徒学生をも対象としている。

 適応的教育を目指すにあたって、ガイドラインは生成AIを活用した教育システムが満たすべき要件を挙げている。たとえば、生徒学生の欠点を指摘するよりも長所を伸ばすシステムであるべきとされている。また、教育における「ニューロダイバーシティ(Neurodiversity、神経多様性)」の実現を目指すべき、とも言われている。この要件は、何らかの知識やスキルの習得にあたっては生徒学生ごとに学ぶ順番や必要とされる知識が異なり、こうした「学びの多様性」に生成AI教育システムは対応すべきことを述べている。

 適応性とは他のアメリカのガイドライン独自の論点として、教育現場における“教師とAIの緊張関係”に関する考察がある。生成AI教育システムは理論上、教師の介入なしで自律的に運用できる。しかし、「教育活動のAIへの丸投げ」はAIによる完全自動化を否定する基本的位置づけに反するので、現実には教師とAIとの協働関係が構築されることとなるだろう。こうした協働関係において、AIに対する教師の主導権をどのように設定するのか、という問題が生じる。この問題は容易に解決するものではなく、今後のオープンな議論が求められるだろう。

イギリス教育省が発表した「生成AIチート」対策

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 イギリス教育省も2023年3月29日、教育現場における生成AI活用ガイドラインを発表している。同国の発表で特筆すべきなのは、ガイドラインの補足資料として公開された「生成AIによるチート(生成AIの不正使用)」対策をまとめた「評価におけるAI活用:資格試験の誠実性を守る」である。この資料は、生成AIの不正使用を見抜くノウハウをまとめている。
〈出典:AI Use in Assessments: Protecting the Integrity of Qualifications

 以上の資料が説いているノウハウとして、生徒学生の先行作品との比較が挙げられる。たとえばあるレポートが以前提出したものと比較して、急に語彙が増えたり、文体が著しく異なっていたりした場合、そのレポートは生成AIの出力をそのまま使っている可能性がある。

 その他のノウハウとして、生成AIが出力した文章の特徴を見抜くものがある。そうした特徴として、参照できない参考文献が挙げられていることがある。この特徴は、生成AIによって参考文献が捏造されるいわゆる「ハルシエーション(Hallucination:英単語の「幻覚」)」に依拠したものである。また、AIの能力の限界などを強調するためにAIが出力する警告文や但し書きが含まれることがある。この検出観点は、不正使用を意図した生徒学生の不注意に着目するものである。

「ハルシネーション」の一例。荒川弘の代表作として、中村光の「荒川アンダーザブリッジ」を挙げられてしまった

 ちなみに生成AIの不正使用対策に関して、アメリカで大きな前進があった。米国政府は2023年7月21日、OpenAI、Googleなど世界的なAI企業7社から業界ルールを自主的に策定する報告を受けたことを発表した。その業界ルールでは、コンテンツがAIによって生成されたかどうかについて、ユーザーが確認できる技術の開発が約束されている。こうした技術には、生成画像に挿入する電子透かしやAI生成文検出ツールが挙げられる。これらの技術は、生成AIの不正使用を抑止することにつながるだろう。
〈出典:FACT SHEET: Biden-⁠Harris Administration Secures Voluntary Commitments from Leading Artificial Intelligence Companies to Manage the Risks Posed by AI

 以上のように日本、アメリカ、イギリスの教育現場における生成AI活用ガイドラインをまとめると、いずれの国でも生成AIを教育現場で活用しようとしていることは一致している。この一致は、将来の世界を担う人材は「生成AIを知ってて当たり前」になることを意味する。このように、次世代の新たな常識になりつつある生成AIは、インターネットやスマホのようにデジタル文化史において重要な意味を持つだろう。

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