生命、記憶、そして家族――「HEAVEN BURNS RED LIVE 2025」が教えてくれた“物語の根源”

ドラマチックRPG『ヘブンバーンズレッド』(以下、ヘブバン)のライブイベント「HEAVEN BURNS RED LIVE 2025」が、2月12日に神奈川県民ホールにて開催された。本公演には多数の劇中歌を担当するやなぎなぎ、本作に登場する劇中バンドShe is Legend(XAI・鈴木このみ)の2組が出演。ゲーム本編シナリオの第五章前編の楽曲を中心にセットリストが組まれた。
2月10日でサービス開始から3周年が経過し、メインシナリオは重厚な物語と歯ごたえのあるバトルが楽しめる。本作の運営は折に触れてそのときの最新ストーリーを体験するようユーザー側に推奨してきた。今回のライブイベントに限らず、たとえば2.5周年の「水着を制する者は夏を制す in 習志野 Supported by Higher Self」は第四章および断章IIを経たうえで遊ぶと、より豊かなゲーム体験を得られる。
最初期から本作に接しているプレイヤーのひとりとして、そういった数々のイベントは『ヘブバン』を遊び続けているユーザーへのラブレターのようなものだと解釈している。本公演でステージのド真ん中に鎮座する“屋上”のセットーー第五章前編で実装されたものーーも、ただならぬ存在感を放っていた。シガレットチョコが無性に欲しくなった参加者も多かろう。

物語のキーマン・逢川めぐみ(CV:伊波杏樹)のアナウンスのあと、やなぎなぎが先陣を切る。「くそ暑い日の誓い」のプリミティブなチャントが響き、BPM160のアップビートが展開。間髪入れずに「ディベートソルジャー」、「ワルキューレの叙事詩」が披露された。
第五章の楽曲中心という触れ込みの通り、冒頭3曲はすべて第五章前編から選出。第四章後編、31D所属のメタル少女・命吹雪との交流イベントにて、She is Legendのギターボーカル担当にして本作の主人公である茅森月歌(かやもり るか)は現行で自分が作っている楽曲について「スクリーモとか、ポスト・ハードコア」と言及している。
そして実際、劇中歌の多くはロックを基軸にしたものが多い。けれども、やなぎなぎ歌唱の楽曲はエレクトロニック・ミュージックを主軸としている。この3曲で言えば、「ディベートソルジャー」は90年代のレイヴミュージック的なテクスチャーも確認できる。それがバンドセットで表現されることにより、より身体的な質感を伴っていた。

MCを挟んで披露された「Bougainvillea」も、シンセの音がより切なさを際立たせている。UKの音楽シーンなどはライブハウスとナイトクラブがシームレスに繋がっているが、麻枝 准氏が手掛ける楽曲からはそういったバイブスが立ち現れる。打ち込みの音が不世出なシンガーと辣腕のバンドによって躍動してゆく様子は、今回のライブで終始通底していたように思う。
幕間にはこのライブのためにオリジナルストーリーが用意され、第五章を補完するような映像が展開された。茅森とその母親である陽向(ひなた)がハムスター(名を“ねずっち”という)をめぐって、「生命とは何ぞや?」を探し当てるような内容だ。ちなみにライブにおけるオリジナルストーリーは「HEAVEN BURNS RED LIVE 2024」でも制作されており、そのときは第四章後半のスピンオフ的な物語が描かれた。
動的なライブと、静かに進むナラティブ。重みのある内容(タッチはコミカルだったが)も相まって、両者のコントラストを強めていた。なお、この幕間のムービーは公演中4回にわたってスクリーンに映し出されている。

そして満を持してShe is Legendのふたりが登場。彼女らの出番は、屈指の名イベント「アイリーン・レドメインの事件簿 -名探偵と森の魔女-」の劇中歌「闇夜のKomachi Vampire」でスタートした。作中のモチーフを想起させるような黒マントと、バンドの轟音で一気に“シーレジェ”のロックの世界へオーディエンスを誘う。彼女らいわく、この衣装は麻枝氏の案のようだ。
続く2曲、「Thank you for Playing ~あなたに出会えてよかった~」、「Come on baby!」はまさにスクリーモ~ポストハードコアに耽溺する時間だった。「Thank you for~」は客席にもシンガロングを促し、まさしくロックスター然としたマナーでステージに君臨した。
そこから「Goodbye Innocence」に繋がり、客席から大きな歓声が上がる。第五章実装よりもだいぶ前の曲だが、She is Legendの足跡と共に深みを増してきた。彼女たちはもはや、全国ツアーを組めるほどのアーティストなのである。2023年~2024年にわたって行われた「She is Legend Live Tour 2023 "Extreme Flag"」のファイナル公演が豊洲Pitで開催されたが、この「Goodbye Innocence」はアンコールの3曲目に披露されている。つまり、正真正銘のラストナンバーだったのである。
今回のライブはあくまで第五章の曲が中心だが、『ヘブバン』が辿ってきた道のりも思い出させてくれた。我々の多くは、いまだに蒼井えりかに囚われており、新衣装が実装されるたびにガチャを引くのである。

幕間のムービーを挟んで、再びやなぎなぎが壇上へ。青い照明が焚かれ、「インドラ」の儀式的なチャントがこだまする。この曲は2008年にリリースされたPCゲーム『5 -ファイブ-』のサウンドトラックに収録されている「イルスカ」のセルフアレンジだ。原曲からしてエスニックな要素はあったのだが、『ヘブバン』のボーカルトラックとして再誕し、より呪術的な雰囲気に仕上がった。
今回披露された幕間のオリジナルストーリーを含めて、このゲームが伝えたいことは極めてプリミティブなところにあるのではないだろうか。AIや地球外生命体など、SF的モチーフは多数登場するのだが、根底にあるのはまさしく生命や記憶、そして家族などである。
これまで麻枝氏がさまざまな作品を通して描いてきたことを、『ヘブバン』ではセラフ部隊をはじめとする戦う少女たちが克明に語っている。この日のやなぎなぎパートはそういった麻枝氏の根源的な作家性を思い出させた。このあとに歌われた「夏気球」も顕著な例だろう。

ライブも真ん中を過ぎてきた。ステージには再びShe is Legendが戻り、「Long Long Spell」のあとにMCが挟まれた。このときXAIが鈴木このみに対し「いつも引っ張ってもらっている」と感謝を述べると、お互いを称えるために抱きしめ合うシーンが生まれた。どんどん場数を踏んでゆく百戦錬磨のディーバ・鈴木このみは、文字通りステージをけん引する存在感を終始放っていた。客席から2人の表情までは見えなかったが、XAIの若干上ずった声から察するにこみあげてくるものがあったのかもしれない。
そして、鈴木このみの「私たちを常に導いてくれてたんじゃないかな」という言葉のあと、「春眠旅団」が披露された。昨年行われた「She is Legend Zepp Tour 2024 "We are 春眠旅団"」ではその名前を引っ提げるほど、彼女たちにとって重要な楽曲だ。ライブを経ることによって“曲が育つ”瞬間があるとすれば、それはZepp Tourにおける「春眠旅団」と共にあったと言えよう。無論、この日も疾走感ある繊細なギターロックは炸裂していた。

最後の幕間のムービーでは、ねずっちを通して命を学んだ茅森がそばで見守ってくれた母親へと想いをつづる。そうして披露されたのが、XAI(茅森)のソロによる「陽のさす向こうへ」。
『ヘブバン』の主人公は茅森だ。けれども、以前の彼女の立ち位置は物語を主体的に進める役割よりも、アタッカーとして文字通り仲間を引っ張る部隊長のタスクを担っていたように思う。メインシナリオ・イベントストーリー共にオムニバス的にそれぞれのキャラクター/部隊にフォーカスされ、物語の中心には茅森以外の人物がいることが多かった。
そんな彼女が歴然たる主人公としての使命を与えられたのが、他ならぬ第五章である。XAIが絶唱する「陽のさす向こうへ」は、茅森が背負う運命や想いを昇華していた。

『ヘブバン』では茅森というフィルターを通しているが、どん底から物語や世界を推進する力は、XAIが元来持ち合わせているものではないだろうか。She is Legend、ひいてはこのゲームの世界の命運を背負うべくして本作と出会った、稀代のシンガー。それが言い過ぎでないほど、「陽のさす向こうへ」へのパフォーマンスは圧巻だった。

いよいよ公演も終盤に差し掛かってきたころ、やなぎなぎが第五章中編のために書き下ろされた新曲「オールトの雲」を披露。「麻枝さんのイチオシ曲」ということだが、あらためてバンドセットで聴くと実に素晴らしい内容だった。第五章中編のファイナルトレーラーでも使われており、すでにユーザーの間では知られていたが、ポテンシャルの高さは歴代のヘブバン楽曲の中でも随一なのではないだろうか。
印象的なギターのアルペジオにどんどん音が足されてゆく様子はミニマルテクノ的であり、考察しがいのあるタイトルにも大いに惹きつけられる。本編のラストを飾った新曲は、今後の展開を期待させるには十分だった。
アンコールには多くの『ヘブバン』ファンが夢見ていた「White Spell」から「白の呪文」がメドレーで演奏された。ドラムンベースを下敷きにした硬質なビートから、破壊的なロックへ。やなぎなぎからShe is Legendへのバトンタッチは、これまで彼女らが見せてきたレンジの広さをそのまま表現しているかのようだった。
締めには直近のイベントストーリーから「Moon Day Real Escape」、第五章前編の劇中歌から「World We Changed」。やなぎなぎがMCで「ヘブバンほど毎回曲目が変わるライブってほかにあるかな」とつぶやく程度には、毎回セットリストが挑戦的だ。回を重ねるごとに曲順や構成を変える麻枝氏の矜持は、ゲームクリエイターというよりミュージシャンのそれである。
それでも、やはり魂はゲームに根差している。本公演が終了したあと、BGMとして流れたのはバトル勝利後のリザルト画面で流れる「勝利の雄叫び」。「HEAVEN BURNS RED LIVE 2025」という至高の戦いは、バンドの圧勝で幕を閉じた。
■セットリスト
1.くそ暑い日の誓い/やなぎなぎ
2.ディベートソルジャー/やなぎなぎ
3.ワルキューレの叙事詩/やなぎなぎ
4.Bougainvillea/やなぎなぎ
5.闇夜のKomachi Vampire/She is Legend
6.Thank you for playing~あなたに出会えてよかった~/She is Legend
7.Come on baby!/She is Legend
8.Kone Kone Day By Day/She is Legend
9.Goodbye Innocence/She is Legend
10.インドラ/やなぎなぎ
11.Particle Effect/やなぎなぎ
12.Welcome to the Front Line!/やなぎなぎ
13.夏気球/やなぎなぎ
14.放課後のメロディ/She is Legend
15.Long Long Spell/She is Legend
16.春眠旅団/She is Legend
17.Dear R. Heinlein/She is Legend
18.陽のさす向こうへ/She is Legend
19.きみの横顔/やなぎなぎ
20.死にゆく季節のきみへ/やなぎなぎ
21.オールトの雲/やなぎなぎ
<アンコール>
22.White Spell→白の呪文/やなぎなぎ、She is Legend
23.Moon Day Real Escape/She is Legend
24.World We Changed/やなぎなぎ、She is Legend"






















