生成AIをそのままレポートに使ってもOK? 世界の教育現場における生成AI活用ガイドラインの現状
依然として頻繁にニュースで耳にする「生成AI」に関して、教育現場での活用が議論されている。普及しつつある生成AIの使い方について、教育現場で何らかの指導が必要ではないだろうか、という問題が世界的に浮上しているのだ。
この問題に関して、本稿では日本、アメリカ、そしてイギリスで発表された教育現場における生成AI活用ガイドラインを紹介することで、正しい生成AI活用法と生成AIの教育への影響について考察したい。
「読書感想文」に生成AIは使っていいのか?
日本の小学校と中学校における生成AIの活用に関しては、文部科学省の初等中等教育局が2023年7月4日に「初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン」を発表した。
同ガイドラインは生成AIが普及しつつある現状を鑑み、児童生徒および教師に対して、生成AI活用に関する一定の見解を国として示す必要から作成された。もっとも、生成AIを取り巻く現状は日進月歩しているので、このガイドラインについては「機動的に改訂を行う」とも言われている。
〈出典:初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン〉
このガイドラインには、教育現場における生成AIの活用に関して、適切な例と不適切な例が挙げられている。適切な使用事例として挙げられている例は、以下の通りである。
●情報モラル教育の一環として、生成AIの特徴や限界に気づかせる授業を行う。
●グループディスカッションの際に、気付かなかった論点を洗い出すために生成AIを使う。
●発展的学習として、生成AIを活用した高度なプログラミングを行わせる(AIによる「ノーコード/ローコードプログラミング」の実践)。
対して不適切な事例は、以下の通り。
●各種コンクールの作品やレポートの作成時に、生成AIの出力をそのまま自分の表現として使う。
●芸術鑑賞などの児童生徒各自の感性が重視される場面において、感想文などの作成に生成AIを使わせる。
●児童生徒の評価を、教師が生成AIの出力のみで行う。
同ガイドラインには、夏休みなどの長期休業中の課題において生成AIを活用する際の指導点もまとめられている。その指導点は以上の適切な使用例と不適切なそれを踏襲したものであり、生成AIの出力をそのまま自分の表現として使うのは場合によっては不正行為に当たること、論点を補う目的で生成AIを活用する場合であっても情報の真偽の確認(いわゆる「ファクトチェック」)を怠らないことなどが留意事項として記されている。
同ガイドラインでは、今後の教育現場における生成AI活用を推進する施策として、インターネットの使い方を学習する情報モラル教育の延長として、生成AI活用法を指導することを推奨している。
さらに保護者の十分な理解が得られた一部の学校を対象として、生成AIを検索エンジンと同等に使いこなせる児童生徒の育成を想定したうえで、学業において生成AIを積極活用するパイロット的な取り組みも計画されている。この取り組みが実行されれば、近い将来「生成AI活用パイロット校」が指定されたというニュースが報道されるだろう。
自主性が尊ばれる大学・高専の生成AI活用
大学と高専(高等専門学校)における生成AI活用に関しては、文部科学省の高等教育局が2023年7月13日に「大学・高専における生成AIの教学面の取扱いについて」を発表した。
このガイドラインと前述の初頭中等教育機関向けのそれの決定的な違いは、大学・高専においてはそれぞれの機関の実情に合わせて自主的にガイドラインを策定するのが望ましい、と「自主性」が重視されている点である。
〈出典:大学・高専における生成AIの教学面の取扱いについて〉
大学・高専のガイドライン策定に際する注意事項は、基本的に初等中等教育機関におけるそれとあまり大差はない。すなわち、レポートの作成等において生成AIの出力をそのまま用いることは本質的な学びにつながらないばかりか、盗作になる恐れがあること、論点を補うために生成AIを活用する場合でもファクトチェックを怠らないことなどが留意点となっている。
大学・高専における生成AI活用に関しては、文部科学省の見解発表以前から当該教育機関からの自主的な発表が相次いでいた。有名なものとしては2023年4月3日、東京大学理事・副学長を務める太田邦史教授が「生成系AI(ChatGPT、BingAI、Bard、Midjourney、Stable Diffusion等)について」と題したコメントを発表した。このコメントでは生成AIの台頭に関して「人類はこの数ヶ月でもうすでにルビコン川を渡ってしまったのかもしれない」(※注釈)と印象的に表現したうえで、「どのようにしたら問題を生じないようにできるのか、その方向性を見出すべく行動することが重要」と説いていた。
〈出典:生成系AI(ChatGPT, BingAI, Bard, Midjourney, Stable Diffusion等)について〉
(※注釈)「ルビコン川を渡る」とは、古代ローマの政治家ユリウス・カエサルが「賽(さい)は投げられた」という言葉を口にして、ルビコン川を渡って古代ローマ共和国に背いた故事に由来する表現。「後戻りできない重大な決断・出来事」に対する比喩として使われる。
最近の動向としては2023年7月31日、多数の大学が大学入試における総合型選抜(旧AO入試)・学校推薦型選抜それぞれの出願書類作成において生成AIの使用を禁じる措置を講じていることを読売新聞オンラインが伝えている。この報道で言及されている大学には青山学院大学、慶応義塾大学、国際基督教大学、上智大学、横浜国立大学など複数が挙がった。
〈出典:読売新聞オンライン「大学が出願書類に『チャットGPT」使わないよう呼びかけ…専門家「面接・筆記試験で能力見極めの動き強まる』」〉