生成AIコンテンツは“誰のもの”? 国内外の生成AI利活用におけるガイドラインの現状を整理する

国内外の生成AI利活用ガイドラインの現状を整理

 ユーザーの指示にしたがって文章や画像を出力する「生成AI」は、急速に我々の日常生活へ普及しつつある。こうした普及にともなって、生成AIコンテンツをめぐる著作権や、偽情報・偽画像の拡散といった新たな問題が生じている。そこで、本稿ではこれらの問題を整理したうえで、生成AIの安全な利活用を促進する「国内外のガイドラインの現状」をまとめる。

そもそもの論点はなにか? 生成AIコンテンツの問題を整理

 生成AIコンテンツをめぐる諸問題を整理するにあたって、前提として生成AIの基本的な仕組みを確認したい。『ChatGPT』や『Stable Diffusion』といった現在注目されている生成AIとは、ユーザーが文章で作成した指示(この指示はプロンプトと呼ばれる)を入力すると、その指示にしたがった文章や画像を出力するシステムのことを意味する。生成AIの「開発」をおこなううえでは、適切な結果を出力できるようにAIを訓練する必要があり、こうした訓練に必要なデータは学習データと呼ばれる。

 生成AIの開発と利用をめぐって想定される問題は、以下のように列挙できる。

(1)学習データの著作権の問題。学習データには文章や画像が含まれるが、こうしたデータを収集する場合、データの著作権者に許可を得る必要があるのだろうか。この問題は生成AIの開発者や、創作物が学習データとして利用され得るクリエイターが関係する。

(2)生成AIの出力結果が既存の創作物と類似した場合、著作権侵害と見なされるのだろうか。この問題は、生成AIを利用する一般ユーザーが関係する。

(3)出力された生成AIコンテンツには、著作権が発生するのだろうか。著作権が発生するとしたら、どのような要件を満たせばよいのだろうか。この問題は、生成AIを利用する一般ユーザーが関係する。

(4)意図的に生成された偽情報・偽画像を識別する方法はあるのだろうか。そもそも、偽情報・偽画像を規制する法律はあるのだろうか。この問題は、偽情報・偽画像に遭遇する可能性のあるすべてのインターネットユーザーが関係する。

 以上のような問題に対して、日本を含む主要先進各国は生成AIの利活用に関するガイドラインを整備することで対処しようとしている。こうしたガイドライン整備の取り組みは、後述するように国際的な連携に発展している。

 以下では、整備中の国内外の生成AIガイドラインを参照することで、列挙した問題に関する取り組みを紹介したい。

著作権セミナー「AIと著作権」で明かされた文化庁の見解とは

令和5年度著作権セミナー「AIと著作権」講演資料より

 著作権が関係する問題1~3については、著作権問題を管轄する文化庁が2023年6月19日にオンラインで開催した著作権セミナー「AIと著作権」で同庁の見解を明らかにした。このセミナーを収録した動画は6月22日にYouTubeで配信され、セミナーの内容をまとめた資料も公開された。
〈出典:文化庁「令和5年度著作権セミナー「AIと著作権」の講演映像及び講演資料を公開しました。」〉

 文化庁が公開した資料によると、生成AIの学習データをめぐる問題には著作権法第30条の4に定められた条文〈AI開発のための情報解析のように、著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用行為は、原則として著作権者の許諾なく行うことが可能〉が適用される。この条文を理解するうえで重要となる「思想又は感情の享受を目的とする利用行為」とは、文章の閲覧や画像の鑑賞が該当する。生成AI開発における学習データは開発者が鑑賞するものではないので、著作権者の許可なく利用できるというわけである。

令和5年度著作権セミナー「AIと著作権」講演資料より

 ただし、「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」は、以上の条文は適用されない。たとえば、情報解析用に販売されているデータベースの著作物をAI学習目的で複製する場合は、当該データベースの著作権者の許可あるいは使用料の支払いが必要になると考えられる。

 生成AIの出力結果が著作権侵害に該当するかどうかは、絵画などの既存創作物に関する著作権侵害要件が適用される。具体的には「類似性」と「依拠性」がある場合、著作権侵害となる。この場合の類似性とは「生成AI出力結果が既存創作物と似ていること」、依拠性とは「生成AI出力結果を意図的に既存創作物に似せようとすること」を意味する。著作権侵害と認定されるにはこの2つの要件が必要となるので、出力結果がたまたま既存創作物に似ているだけならば、法的に問題ない。

令和5年度著作権セミナー「AIと著作権」講演資料より

 生成AI出力結果に著作権が生じるかどうかに関しては、生成AIのユーザーが出力結果に対して「創作意図」があり、なおかつ「創作的寄与」があった場合に認められる。創作的寄与が認められるのは、たとえば複雑な指示を生成AIに与えたり、出力結果にさらに指示を与えたりする場合だろう。反対に簡単な指示を与えて得られた結果については、著作権が生じない。創作的寄与の具体的な範囲に関しては考え方を整理して周知を進めていく、と文化庁は述べている。

令和5年度著作権セミナー「AIと著作権」講演資料より

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