“AI生成コンテンツ時代”のプラットフォーマーを目指すGoogle 『Google I/O 2023』からその変貌を読み解く
2023年5月10日、Googleは年次開発者会議「Google I/O 2023」を開催した。「ChatGPT」の大流行を受けて、この会議ではAI関連の大きな発表があると予想されていたが、案の定さまざまなAI製品が披露された。これらの発表からは来たるべき“AI生成コンテンツ時代”のプラットフォーマーになるために、同社が基幹業務を再構築しようとする狙いがうかがえる。
本稿では今までの同社のビジネスモデルを再確認したうえで、AIがコンテンツ制作の現場に加わった“新時代”に、同社はどのように適合しようとしているのか、その動向を発表された製品群から読み解いていく。
「人が作ったコンテンツ」の流通を支配してきたGoogle
周知のように、Googleはインターネット検索に革命を起こしたことで一躍注目の企業となった。同社が創業した頃のインターネットは、すでにコンテンツで溢れかえっていたものも、ユーザーが望んでいるコンテンツを探すのが現在より困難であった。こうしたなか同社が発明した検索アルゴリズム「PageRank(ページランク)」によって、ユーザーは真に閲覧すべきコンテンツを検索できるようになったのだ。
検索ビジネスの大成功後、Googleは製品の多角化を加速する。同社がリリースした製品のうちその多くが、今日のデジタルコンテンツ消費生活におけるインフラとなった。たとえば「Gmail」はメールサービスという本来の役割を超えて、現在ではユーザー認証ツールとしても機能している。「YouTube」は誰もが動画を世界に発信できる「動画の民主化」を推進し、動画プラットフォームとして不動の地位を築いた。
以上のような多岐に及ぶGoogleの主要製品には、「人が作ったコンテンツ」の流通を最適化するという共通項がある。Google検索はウェブページ、GmailはEメール、YouTubeは動画と、扱うコンテンツはそれぞれ異なるものの、そのどれもが「コンテンツを制作者から消費者に適切に届ける」という特徴を共有している。
しかし、2020年代になって、デジタルコンテンツ文化に大きな変化が起こる。今までは人の手によって作られていたデジタルコンテンツを、AIが生成できるようになったのだ。人間が書いた文章と見分けがつかない文章を生成できる「GPT-3」、テキストから画像を生成できる「DALL-E 2」や「Stable Diffusion」、そしてユーザーと自然な対話ができる「ChatGPT」。これらが登場したことで、コンテンツを産み出す行為はもはや人間だけのものではなくなった。
こうした「AI生成コンテンツ時代」が到来したことで、Googleのビジネスモデルの前提は大きく変わることになる。デジタルコンテンツの流れに「人間からAI」あるいは「AIから人間」という“新たな結節点”が加わったのだ。
こうした変化に対応するには、Googleの主要製品・サービスをAIによって再構築する必要がある。同社が『Google I/O 2023』においてかつてないほどAIを前面に押し出したのは、新しい時代に向けて急速に変貌を遂げようとしているからと言える。
Google製品の心臓部となる大規模言語モデルと対話型AI
AI生成コンテンツ時代でもっとも重要になるのは、大規模言語モデルである。というのも、インターネットに“文字”が溢れていることを見ればわかるように、デジタルコンテンツ制作においてコードやテキストを含む文字はもっとも基礎的なパーツとなるからだ。そうした文字を人間のように生成できる大規模言語モデルは、生成AIの要となる。
『Google I/O 2023』においてGoogleは、最新の大規模言語モデル「PaLM 2」を発表した。同モデルは100以上の言語による文章生成や翻訳、数学における推論、そして「Python」や「JavaScript」のコーディングにも対応している。
〈出典:「PaLM 2 のご紹介」〉
特筆すべきは、PaLM 2が25を超えるGoogle製品と新機能に搭載されたことだ。搭載された製品には後述する対話型AIの「Bard」や「AI生成型検索」のほか、医療分野に特化した言語モデル「Med-PaLM 2」などがある。
PaLM 2搭載製品の筆頭とも言えるBardは、明らかにChatGPTの競合製品として開発されたものだろう。同AIはChatGPTとの差別化を図るために、質問に対する回答を複数生成して、より適切にユーザーの期待に応えようとしている。また、回答を「Googleドキュメント」にエクスポートしたり、Gmailの下書きに流用したりできる点も特徴として挙げられる。
〈出典:「Bard が日本語に対応」〉
今後BardはGoogle製品との連携がさらに強化される予定だ。具体的には「Googleドライブ」「Googleマップ」との連携に対応し、さらに数ヶ月以内にアドビ社が提供する「Adobe firefly」と「Adobe Express」ともつながるという。ただし、Adobe製品との連携は、はじめは英語版Bardのみ対応となるようだ。
このようにPaLM 2とBardは、ユーザーとGoogle製品のテキストを介した結節点として重要な役割を果たすことになる。