ソラの参戦が『スマブラSP』を変えること、「スマブラ」において変わらないこと

ソラの参戦が『スマブラSP』を変えること

ソラの参戦とルール設定の幅広さの再発見

 しかし、性能的に「低い」個性が生かされるにはどうしたらいいのだろうか。アイテムやステージギミックといったランダム要素に身を任せ、いわゆる「運ゲー」を仕掛けるしかないのだろうか。

 『ゲーミフィケーション』の著者として知られるゲーム研究者の井上明人は、ある競技において身体の個性や性能が「高」かったり「低」かったりすることがむしろ戦略的に有効である場合も存在しうることを、パラリンピックと車椅子バスケの事例を参照しながらこう述べている。

「『多様な身体』を前提としたルール設計は、パラリンピックでこそ真剣に考えられてきた。とりわけ、車椅子バスケットボールのルールはそういったルール設計の中の白眉のひとつだろう。

 車椅子バスケットボールでは、チームの中のメンバーの障害の重度、軽度の程度が全メンバーで一定である必要はない。メンバー全員の障害の程度が、ある範囲内におさまっていればいい。障害のレベルが、1~4.5までの5段階に分けられ、チーム全体の数値の合計が14を超えてはならないというルールだ。

 その結果、1つのチームの中に重度の障害者もいれば中度の障害者もおり、多様な身体を持った人々が、多様な身体のまま競うことができる競技となっている。(略)基本的には障害の重いプレイヤーがいることは『足手まとい』なのではなく、ルール上、戦略的に重要なプレイヤーとして位置づけることができる」(井上明人「多様な身体を包摂する拡張パラリンピック計画 オリンピックとパラリンピックを融合する新たなスポーツのルール設計」

 ここでは、勝利条件と身体の特徴をめぐる考え方が逆転している。つまり、「既存のルールでの勝利条件を満たす身体とは何か(満たさない身体は不利になる)」という発想ではなく、「いまある身体の特徴がそのままに生かされるルールとは何か」を考える発想だ。

 比喩的に言えば、「ガノンドロフ(※3)で勝つにはどうすればいいか」ではなく「ガノンドロフが環境トップになるルールとは何か」を考えることである。

 これまで述べてきたように、ルール設定の幅が極めて大きい「スマブラ」であればそうした発想での楽しみ方が十分に可能であろう。というより、それこそが本シリーズの本質的な魅力なのではないかとさえ思う。公式で開かれるカジュアルなルールでの大会は、そのことを端的に示すものであろうし、トッププレイヤーの間でも単に競技ルールでのハイレベルな対戦を行うのではなく、カジュアルな場でオリジナルルールを考案してプレイする模様がYouTubeなどで公開されることもある。

 たとえばしょーぐんというプレイヤーは、国内でもトップクラスの腕前を誇るプレイヤーだが、競技シーンとはあえてかけ離れたルールを設定してプレイする模様を積極的に公開している人物の一人である。

重力加速ステージを使ってタイマンをしたら、色々な永パやハメ技が生まれて面白かった

 もっともこうした動画への反応をみるかぎり、現状ではどちらかと言えばトッププレイヤー「にもかかわらず」カジュアルに遊んでいる様子が、ギャップとして消費されている側面が強いものの、これらのことが「ルール設定の幅広さ」と「多様な(キャラクターの)身体の特徴」とをかけ合わせることのポジティブな面を伝えるきっかけにはなりうるだろう。

 あるいはこれは筆者の勝手な想像だが、先の車椅子バスケの例を参考にするならば、「スマブラ」のチーム制乱闘において「チーム内で使用するファイターの総体重量は〇〇kg~〇〇kgに設定する」とか「チーム内のキャラクターの数はプレイヤーの数より多くなければならない(アイスクライマーやポケモントレーナーといった、一度に複数のキャラを操作できるファイターを選ぶことで実現する)」とかいうようにさまざまなレギュレーションを施すことで、(いま「弱キャラ」とされているファイターであったとしても)特定のキャラクターを使わなければ戦略が成り立たないような状況を作り出すことも可能だ(※4)。そして、「弱キャラ」を好んで使っていたり「弱キャラ」の操作に長けていたりするプレイヤーは、そうしたレギュレーションのもとではむしろ戦略的に重宝されることになる。

 もちろんこうした特殊なレギュレーションを競技シーンの場で今すぐ実装しろと言いたいわけではない。ただ、ダウンロードコンテンツの制作が終了し、新たな参戦キャラ発表に伴う「お祭り」が、もう開催されなくなってしまった今、これまでみてきたようなカジュアルプレイでの多様な遊び方を開拓していくことは、本作がこれからも継続して多くのプレイヤーに遊ばれ続けるうえで、きっと役に立つはずだ。

 そしてそのことが、ディズニーの版権すらもクリアし、89体もの「多様な身体」を一つのルールのもとに実現させた、『大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL』というゲームへの、プレイヤー側からのアンサーになりうるはずである。

 ついに参戦を果たしたソラをきっかけに、「体力制乱闘」や「最後の切り札」などの特殊ルールをはじめとした、「スマブラ」のルール設定の幅広さが改めて再発見されるであろういま、筆者が期待しているのは以上のようなことだ。

 ともあれ、まずはソラというキャラクターの操作を、素直に楽しもう。そして最後に、改めてこの言葉を送って本稿を閉じようと思う。

 #ThankYouSakurai !

※1:格ゲーキャラの数が大幅に増えた今作『スマブラSP』からは、「体力制乱闘」が正式な対戦ルールの一つとして設定されている。
※2:ダメージの変化によって使えるようになる「最後の切り札」は、簡易版の「チャージ切り札」と呼ばれる。
※3:「ゼルダの伝説」シリーズにおいて何度も「ラスボス」として君臨する魔王だが、それとは対照的に「スマブラ」では最弱キャラのうちの一体とされている。ただそのギャップゆえに多くのプレイヤーから愛されるとともに、競技シーンにおいてガノンドロフを使用して結果を残せるプレイヤーは注目を浴びる。
※4:余談だが、筆者は前作『スマブラfor』において「ガノンドロフの通常必殺技のみを使って戦う」というルールを勝手に作ってはよく友人同士で対戦していた。前作のガノンドロフは通常必殺技を放ったあとわずかに前進するため、技を撃ったり振り向きを利用したりするタイミングが駆け引きとして機能する(この遊び方を「ガノンマンシップグランプリ」と呼んでいた)。

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