『鬼滅の刃 ヒノカミ血風譚』に課せられた“3つの課題” 商業的成功と評価を両立できるか?
また、対戦ジャンル特有のプレイヤーのマナーの悪さも、ライトユーザーの体験を悪化させる恐れがある。
・サブアカウントを使うなどして低ランクを騙る上級者が、プレイの覚束ない初心者を一方的に痛めつける「初心者狩り」
・決着後に敗者に対して侮辱的な態度をとる「煽り」
・勝負に納得がいかなかったことを理由に、プラットフォームのメッセージ機能を使って罵詈雑言を相手へとぶつける「ファンメール」
こうしたネガティブな要素は、対戦ジャンルの日常だ。
『鬼滅の刃 ヒノカミ血風譚』が仮に前段の課題をクリアできたとしても、その先にはジャンル特有のハードルの高さ・マナーの悪さが横たわる。おそらく同タイトルには、簡易コンボといった“初心者救済要素”が盛り込まれると予測するが、既存の対策のみでライトユーザーが本当の意味で楽しめるタイトルなるかは、正直微妙なところだろう。初めて対戦格闘に挑戦するプレイヤーが多いと想定されるだけに、評価へと直結するであろうジャンル特有の課題を見つめておかなければならない。
最後に挙げる課題点は、原作のある作品を対戦格闘にする難しさについてだ。
対戦格闘というジャンルにおいては、能力や特性、技の種類・強さなどによって、キャラクター間に性能格差が生まれやすい。こうした差はネット上で標準化・一般化され、各キャラクターには「SS」から順に、個別のキャラランクが割り振られていく。長期的にはアップデートなどで調整されていくが、常時この格差は存在し、最上位と最下位では致命的な差となっている場合も珍しくない。ここに原作のある作品を対戦格闘にする難しさがある。
ご存知のように『鬼滅の刃 ヒノカミ血風譚』は、漫画『鬼滅の刃』を元にしたゲームタイトルであり、原作はすでに完結を迎えている。つまり同タイトルは、完成されたストーリーの上に制作された対戦格闘であるのだ。この点が作品の評価やゲームバランスに与える影響は大きい。それはなぜか。原作シナリオとの決別が難しいためだ。
例えば、今後参戦が予想される敵側のトップ・鬼舞辻無惨が、調整によって最弱キャラとなれば、原作の世界観を壊すゲームバランスに異を唱える者も出てきかねない。一方、そういった状況に“忖度”し、常に主人公の竈門炭治郎が最強キャラの一角なのであれば、対戦格闘としてゲーム化する意味はゼロに近くなる。
過去に私がプレイしたタイトルでは、ストーリーの展開によってキャラの性能が乱高下した上、シナリオの一線を離れたキャラは、二度と上位のランクに割り振られることがなかった。特定のキャラを愛用していく傾向が強い対戦格闘において、この問題はプレイヤーのモチベーションにもつながるクリティカルな問題だ。特に原作の人気が先行する『鬼滅の刃 ヒノカミ血風譚』においては致命的と言える。この課題をいかにクリアするかもまた、同タイトルのゲーム作品としての評価を二分する重要なポイントとなるだろう。
とはいえ、これら3つの課題をクリアすれば、『鬼滅の刃 ヒノカミ血風譚』は、話題性に勝るタイトルとなれる可能性を秘めている。商業的成功と評価を両立できるか。シリーズ化へ向けての試金石となりそうだ。
■結木千尋
ユウキチヒロ。多趣味なフリーライター。
執筆領域は音楽、ゲーム、グルメ、テクノロジーなど。カルチャー系を中心に幅広いジャンルで執筆をおこなう。
人当たりのいい人見知りだが、絶対に信じてもらえないタイプ。Twitter:@yuuki_chihiro