SF作家はシリコンバレーに敗北したのか? ジェームズ・キャメロン『SF映画術』から考える

SF作家はシリコンバレーに敗北したのか?

 SFというジャンルは、近未来のイメージを示し、科学の発展の夢や悪夢を描き、現実の社会に大きな影響を与えてきた。また、現実社会の変化やテクノロジーの発展を反映し、相互に影響を与え合ってきた面もある。

 そんなSFというジャンルを、6人の映画監督と1人の映画俳優が語りつくす一冊の書籍が発売された。

 DU BOOKSから発売された『SF映画術 ジェームズ・キャメロンと6人の巨匠が語るサイエンス・フィクション創作講座』は、『ターミネーター』や『アバター』などSF映画史に名を残す作品を監督したジェームズ・キャメロンが、スティーブン・スピルバーグ、ジョージ・ルーカス、クリストファー・ノーラン、ギレルモ・デル・トロ、リドリー・スコット、そしてアーノルド・シュワルツェネッガーらとSFについて語り合うテレビ番組の内容を収録したものだ。この番組は、日本でも映画専門チャンネル「ムービープラス」にて11月27日から放送される予定だ(https://www.movieplus.jp/special/james-camerons-story-of-science-fiction/)。

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 このハリウッドの重鎮たちは、名だたるSF映画と社会との関係、人類の未来にとってSFがいかに重要な役割を果たすのかについて雄弁に語る。彼らが思い描くSFと人類の関係はどのようなものだろうか。

哲学の最深部に切り込むのがSF

 本の冒頭、ジェームズ・キャメロンは、SFの魅力を以下のように説明している。

「今後、何が起こるのか? 人類は滅びる運命にあるのか、あるいは偉大な神となるのか? このように臆することなく哲学の最深層の領域にまで切り込んでいくジャンル、それがSFだ」(P6)

 その奥深いSFを掘り下げるために本書は、地球外生命体、星間旅行、タイムトラベル、モンスター、ダーク・フューチャー、知的存在としての機会の6つのテーマを設け、キャメロンがそれぞれのテーマにかかわりの深いゲストと議論するという形を取っている。

 本書は映画監督たちの語らいを収録したもので、タイトルに「映画術」と謳っているが、面白いSF映画を作るテクニックを紹介しているわけではない。むしろ、彼らの語りは、SFと社会の関係や、与える影響、人間の実存と未来はどうなるのかといった哲学的な問いを多く含んでいる。映画術といよりもSF社会論のような内容と言えるだろう。

SFは社会の問題意識を反映する

 現実社会の問題を反映したSF作品は数多く作られてきた。スピルバーグは『未知との遭遇』についてキャメロンについて質問されて、このように語っている。

キャメロン「君はモンスターに詳しい。そして、宇宙人は時にモンスターだ。だけど、いつでもそうだとは限らない。『未知との遭遇』で、君は地球外生物が恐ろしい存在にも、友好的な存在にもなり得る2つの可能性があることを示した」

スピルバーグ「それって、広島と長崎に落とされた原爆に端を発していると思う。もちろん、最初に原爆の影響を芸術に反映したのは日本人だ。東宝の『ゴジラ(54)』は、国内で起きてしまった取り返しのつかないことに対する文化的、国民的な不安を利用した最初の映画」

 『ゴジラ』という傑作が、原爆の恐怖から生まれた作品であることは、誰もが認めるところだ。クリストファー・ノーランも本書の中で『ゴジラ』に言及しているが、現実社会の途方もない悲劇が表現者に危機意識とインスピレーションを与え、観客に現実社会への警鐘となることがある。とりわけ、SFとはそういう作品を数多く生み出してきたジャンルだということが本書では度々言及される。

 それは、原爆のような人類史の悲劇だけではなく、例えば、冷戦時代のアメリカにおいて、共産主義の脅威が「赤の惑星」の驚異として描かれたりしたとキャメロンが語るが、ある種の社会に対する危機感がSFというジャンルに活力を与えていたことが示唆される。

 そのほか、『スター・トレック』は社会のマイノリティに対する抑圧を表現し、優れた問題提起をした作品として評価し、『スターウォーズ』もまた、当時のベトナム戦争の泥沼にはまったアメリカを銀河帝国になぞらえて理解できると語られている。

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