SF作家はシリコンバレーに敗北したのか? ジェームズ・キャメロン『SF映画術』から考える

SF作家はシリコンバレーに敗北したのか?

SF作家はシリコンバレーに敗北したのか

 SFは時に社会から影響を受けるだけでなく、人間社会の未来へ大きな影響を及ぼすこともある。未来を描いた作品の中に登場する夢のようなガジェットが、多くの人を惹きつけ、それを実現しようとする人が現れることがある。

 そして、テクノロジーが未来にどんな問題を引き起こすかを事前に描いてきたのもSFだった。進化したAIが人類にとって脅威となるのか、人間の操作を必要としない自立兵器の恐怖、核戦争で荒廃する未来などを描くSFは数多い。そんな未来への不安を反映させた傑作『ブレードランナー』の監督リドリー・スコットは、SFは「人間が過去に行ったことと、これから行おうとしていることを映し出す鏡(P253)」だと語る。

 SFの想像力は人類にとって未来への指標ともなっていると言えるだろう。未来予測が楽観的なものであれ、悲観的なものであれ、現代社会の多くのサービスやガジェットは少なからず、過去のSF作品の影響を受けて生み出されたものだと言っても過言ではないだろうし、今ホットなAI開発が目指す未来も、SF作品の想像力と重なる部分が大きい分野だ。

 しかし、近年の現実社会におけるテクノロジーの発展は、かつてのSF作家たちの想像を超えているともキャメロンは語る。

キャメロン「SF作家たちは、テクノロジーがどんな意味を持つのか読み解くべく、あれこれ探りを入れるのを常としている。しかし、全てはシリコンバレーの先端IT企業の発明品の前にひざまずいてしまう。パソコンやインターネットの類は、SF作家が想像したこと、想像し得ることを超越していたんだ」(P34)

 スピルバーグも「絵コンテボードにやっとの思いで向き合い未来の姿を描こうとする前に、マイクロソフトやアップルが驚くべき未来予想図を思いついてしまっている(P91)」と語り、現代社会はすでにSFの世界なのだと言う。

 しかし、そのテクノロジーの進化が作家にインスピレーションを与えることもある。クリストファー・ノーランは、『インセプション』の夢の階層というアイディアは、iPodの「聴きたい音楽にたどり着くには、画面を何回か切り替え、どんどん深い層に入っていかないといけない(P162)」インターフェイスに基づいていたと証言している。

 そういう時代に、SFはどうあるべきなのか。社会を見渡せば問題は山積で、加速度的に進化するテクノロジーは新たな可能性と問題を同時に引き起こす。かつてSFが想像した世界に現実が追い付きつつある現代で、SFには何ができるだろうか。

 6人の巨匠たちはそれを模索すべく、ここで語らっている。世の中がどんどん複雑化し、未来も見通しづらくなっているからこそ、SF的想像力は世の中に必要なのだと本書は訴えているのだ。

■杉本穂高
神奈川県厚木市のミニシアター「アミューあつぎ映画.comシネマ」の元支配人。ブログ:「Film Goes With Net」書いてます。他ハフィントン・ポストなどでも映画評を執筆中。

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