『ソニック・ザ・ムービー』から考えた、CGキャラデザインにおける“かわいい”の定義

 SEGAの生んだ世界的人気キャラクター、ソニックを主人公にした映画『ソニック・ザ・ムービー』が公開されている。

 本作は本来であれば3月に上映開始予定だったが、新型コロナウイルス感染拡大の影響によって公開延期となっていた。本国アメリカでは、コロナの影響を受ける前、2月14日に公開され大ヒットを記録。早くも続編の制作が進行しているらしい。日本では感染予防対策のため映画館の座席販売数が減らされているため、どこまで興行成績を伸ばせるか不透明だが、初週はまずまずのスタートを切ったようだ。

『ソニック・ザ・ムービー』新予告 ※2020年6月26日(金)公開!

 本作は実は、アメリカでも一度公開延期されている。しかしその理由はコロナではなく、ソニックのCGデザインの変更だ。本来は昨年の11月に公開される予定だったが、先だって配信された予告編のソニックのデザインに様々な意見が寄せられ、監督のジェフ・ファウラーが「みんなデザインに納得しておらず、変更を求めている。チーム一丸となって、このキャラクターがベストな形になるよう尽力する」と発表。急遽デザインを作り直すこととなり、公開を3か月遅らせることにしたのだ。

 一連の流れは、デザインにおける「かわいい」とは何かについての貴重なレッスンとなった。ソニックのCGデザインの変更はいかにしてなされたのかを振り返るとともに、“リアルさ”と“魅力”について考えてみることにする。

ソニックを知るアーティストを招聘

 予告編におけるソニックのデザインは、原作ゲームのイメージからかけ離れたものだった。映画製作チームは、実写化にあたりリアリティを追求したため、目を小さくし、人間のような歯も生やし、まるで青いハリネズミと人間のハイブリッドのような印象を与えるデザインを作り上げた。

 このデザインが世に出ると、大きな議論が起こった。原作とのイメージの乖離は常に批判の的にされがちで、その批判の全てが妥当だとは思わないが、原作と違うということを抜きにしても、やや不気味さを感じるデザインだったことは確かだ。

 漫画やゲームなどの2次元ベースのキャラクターを実写化する際には、常に原作の魅力を損なわずに現実世界に馴染ませるためのバランスに腐心する必要がある。日本から本作のCG製作に参加したマーザ・アニメーションプラネットは、冒頭のフルCGパートである宇宙の果てのシーンを担当しているが、「監督はリアリティを求めていましたが、提供されたベビーソニックのアートはチャンキー(chunky ※原作ゲーム的なルックという意味)だったため、丸みを帯びたかわいらしいフォルムを維持しながらリアリティを追求するのに苦心しました」と語っている(参考:https://cgworld.jp/feature/202006-cgw262hs1sonic-2.html)。

 製作会社のパラマウントは、このデザイン変更のために全米公開を3か月遅らせる決断をしたが、実際にデザイン変更にかかったのは7週間から8週間ほどだったそうだ。VFXスーパーバイザーのGed WrightがFX Guideに語ったところによると(参考:https://www.fxguide.com/fxfeatured/sonics-very-fast-redesign/)、そのスピードはCG会社ムービング・ピクチャー・カンパニーにとって最短記録であるそうだ。元々プリビズチームがラフデータによるソニックで全体の映画の構成を作っており、そのデータをもとに映画全体を組み立てていたそうで、新しいデザインをパイプラインに流し込むことができたそうだ。手足の長さなどは旧バージョンと同じになるよう慎重に作られ、ストーリーラインなどの調整は必要なかったとのことだ。

 デザイン変更にあたり最も重要だったのは、何がソニックであると決定づけているかを見極めることだったという。そのためにソニックがモーテルのベッドに座っているシーンを選んでテストショットを作成した。ライトが心配したのは誇張されたデザインで、エモーショナルかつ繊細は感情が表現できるかだったのだが、テストで上がってきた新デザインのソニックにはきちんとそれらが感じられたため、自信を深めることができたという。

 デザイン変更にあたって、ソニックのゲーム版でキャラクターデザインを担当していたイラストレーターのタイソン・ヘッセも協力している。ヘッセは『ソニックマニア』のオープニングなどを手掛けたことでソニックファンにもよく知られた存在だ。長年ソニック関連の仕事をしてきたヘッセはソニックのデザインを熟知している存在なだけに、彼の参加がプロダクション全体に与える影響はとても大きかっただろう。

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