『風、薫る』中村倫也が約1カ月ぶりに再登場 静かなまなざしに宿る“ロイヤルな気品”

『風、薫る』中村倫也の“ロイヤルな気品”

 ところが、りんと直美が去ったあと、柳生がすでに調査を始めていたことが明らかになる。なぜ、その事実を2人に伝えなかったのか。秘書に問われても、柳生は何も答えない。意味深な沈黙を残し、再び淡々と仕事に取りかかるだけだった。

 それにしても、中村はこうした明治の洋装と重厚なセットがよく似合う。端正なスーツに身を包み、深緑の椅子にゆったりと身を預け、口元に指を添える姿には、役人としての威厳だけではなく、どこかロイヤルな気品と色気が漂う。

 不思議なのは、それが身なりによって与えられたものではないことだ。赤痢で生死の境をさまよい、身なりを整える余裕すらなかったときでさえ、柳生から気品は失われなかった。低音で安定感のある声も相まって、弱りきった患者でありながら、ただ者ではない雰囲気をまとっていた。

 装いや置かれた状況が変わっても、柳生の本質は一貫している。赤痢患者として力なく横たわりながら、実際には調査員として周囲を観察していた。今回も派出看護婦会の実態調査を進めていながら、その事実をなぜか、りんと直美には伏せている。自分が何を見て、どう考え、どこまで行動に移しているのかを周囲に悟らせない。そんな柳生の底知れなさを、中村は多くを語らない抑制された芝居で際立たせていた。

 中村は柳生について、「『社会全体の利益』という視点をもたらす存在」だとコメントしている。その言葉の意味を考える手がかりとなるのが、第113話での柳生の振る舞いだ。りんと直美が目の前で起きている被害を食い止めようとする一方、柳生は派出看護婦会全体の実態を把握したうえで、必要な対策を講じようとしている。一部の悪質な看護婦会を排除して終わるのではなく、すべての患者が適切な看護を受けられる仕組みを考えること。それが、柳生にとっての「社会全体の利益」なのかもしれない。

 柳生のモデルは公表されていないが、その経歴から連想されるのが、明治期の公衆衛生行政を牽引した後藤新平だ。内務省衛生局に入った後藤は、りんのモチーフである大関和から、看護婦の資格を定める規則の必要性を訴えられた人物でもある。この史実を踏まえると、柳生も今後、りんと直美が現場で感じている問題を、社会の仕組みへとつなげる役割を担う可能性がある。

 ただし、公式の人物紹介では、柳生は「後にふたりの大きな壁となる」と明かされている。目の前の患者を一刻も早く救いたい2人と、社会全体を見渡しながら段階を踏んで動く柳生。その立場や時間感覚の違いが、やがて両者を隔てる壁になるのだろうか。すでに調査を始めていながら、その理由も意図も明かさない柳生だけに、今後の行動はまだ不明。本心を容易には悟らせない中村のまなざしから、ますます目が離せない。

■放送情報
2026年度前期 NHK連続テレビ小説『風、薫る』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:見上愛、上坂樹里
脚本:吉澤智子
原案:田中ひかる『明治のナイチンゲール 大関和物語』
制作統括:松園武大
プロデューサー:川口俊介
演出:佐々木善春、橋本万葉ほか
写真提供=NHK

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