『踊る大捜査線 THE MOVIE』は原点にして異色作? 当時を知るライターが時代背景を解説

成馬氏は、『踊る』シリーズから紐解ける時代性については、「1990年代後半の空気が詰まっている」とも語る。

「『1』はフィルム撮影ということもあってか、他の『踊る』関連の作品と比べると画面の質感が映画寄りなんですよね。テレビドラマの映画化ですが、黒澤明の『天国と地獄』の引用などもあり、“映画”であることが強く意識されていると思います。個人的にはテレビドラマ時代の映像のほうがテンポがよくて観やすかったのですが、アニメの影響があったり、当時の海外ドラマの撮影方法などが取り入れられていたり、テレビドラマの流れも汲んでいたりという、カオスな作品だからこそマニアックなファンがついたのだと思います。物語としては、よくいわれることですが、警視庁と所轄の関係を“本店”と“支店”という会社組織にたとえて、警察組織内での上下関係を主軸に添えた点が新しかった。また、『踊る』は、インターネットが生活の中に入ってきた時期のドラマでもあるのですが、ドラマ内での描き方も両義的で、怪我をした刑事のことを心配する人々の声が彼が運営するホームページに描き込まれる場面がある一方で、殺人犯がホームページを利用する描写もありました。その意味で1990年代後半の空気がすごく反映されているのですが、『エヴァ』のような“露悪的な鬱展開”とは距離を取って、刑事ドラマとして前向きな部分がちゃんと残されていたからこそ、その後も続編が作られる普遍的な作品として残ったのだと思います。おそらく同時期に『エヴァ』などの暗い作品が盛り上がってたという文脈を共有していないと、当時の『踊る』の立ち位置はよくわからないと思うんですよね。劇場版の『2』から入って『1』に遡る人も多いのですが、できればテレビドラマから順に観てほしいですね」
刑事ドラマの犯人像からは、その時代の社会精神がうかがえる。成馬氏は『踊る』シリーズで描かれる犯人像に言及しつつ、「『1』はテレビシリーズと劇場版シリーズのつなぎ目のような作品」であるとしてこう締め括った。
「シリーズが進むにつれて、犯人像もいまでいう“無敵の人”のようになっていき、年功序列や終身雇用といったサラリーマン社会が壊れていくなかで、犯人も“匿名性”が強くなり、それ以前の刑事ドラマと比べると理解できない不気味な存在として描かれるようになってくる。その兆候は『1』の犯人の姿にも表れていますよね。これもオウム真理教の地下鉄サリン事件が起きて、少年犯罪が世間を騒がせていた1990年代の空気の反映だったと思うのですが、結局この問題を『室井慎次』シリーズまで引っ張ることになる。本格的な『踊る』が確立されるのは『2』なんですが、『1』でもその兆候がすでに見られるので、テレビシリーズと劇場版シリーズのつなぎ目のような作品といえると思います」
■放送情報
『踊る大捜査線 THE MOVIE』
フジテレビ系『土曜プレミアム』にて、8月15日(土)21:00〜23:30放送
出演:織田裕二、柳葉敏郎、深津絵里、水野美紀、いかりや長介ほか
監督:本広克行
脚本:君塚良一
プロデューサー:亀山千広
製作:フジテレビジョン






















