『風、薫る』“横沢”井上祐貴の暴走でりんの恋模様に大波乱? シマケンの次なる一手に注目

『風、薫る』りんの恋模様に大波乱

 8月11日に放送されたNHK連続テレビ小説『風、薫る』第97話では、つかの間の平穏な日常を破る突然の来客があった。

 好調な業績を受けて恵風看護婦会では無償の派出看護に乗り出した。第1号の依頼は長屋住まいの夫婦。夫の反町四郎(岡部尚)は工場の日雇いだが、喘息で仕事を休みがち。妻の登勢(前田亜季)は夫の看病をし、子どもを育てながら内職で家計を支えていた。

 四郎の家は空気が淀んで物が散らかっていた。直美(上坂樹里)は換気をしてから四郎を触診し、痰が溜まっていると診断。湯を沸かし、湯気を吸って痰を出やすくした。また、掃除してほこりを拭き取った。夜になると咳がひどくなるので、薬を塗った湿布を胸にあてた。症状が緩和した四郎は、いつもより早く就寝できた。

 派出看護は患者の自宅を訪れるため、病院と違って看護にも生活感が漂う。登勢はマッチ箱の内職をしていた。直美も以前マッチ箱の仕事をしており、マッチ箱は直美と患者をつなぐ原点でもある。直美に、なぜ自分が無償の看護をしているのかその理由を思い出させただろう。直美自身「無償だから届けられるんだと思って。続けていくつもり」と手ごたえを感じていた。

 りん(見上愛)にとって、数年ぶりに環(英茉)と親子で過ごす日々である。育ち盛りの娘の成長を目にできず親として我慢を強いられていただけに、その尊さを誰よりも感じている。幸福な時間が流れる中で、美津(水野美紀)は「いまの暮らしはいつまでも続きません。変わっていくものです」と、その有限性を知らせた。

 突然の来客については、オープニングクレジットで、見上と上坂に続いて、佐野晶哉、そして横沢公輔役の井上祐貴が掲示された時点で察するものがあった。ドラマの尺で言うと、15分構成の10分に達する手前で横沢が登場。のっけから「結婚を申し込みにまいりました」と切り出した。

 りんからすれば、横沢はふざけているようにしか見えないが、本人は真剣である。横沢という人物は、やっていることが突拍子ないせいか、周囲からすれば本気と冗談の境目が見えにくい。しかし、横沢自身は「全部本気」で目の前のことを全力で楽しんでいる。そんな好奇心のかたまりの横沢が、今回は冗談抜きで真剣にりんと相対する。

 横沢がりんに惹かれたのは、生き様と性格、差し入れに見る趣味の良さである。夫婦としてやっていけるかを事前に判断した上で、満を持して来宅している。「一緒に楽しく暮らしましょう。必ず幸せにします」に対するりんの答えは「これでも私いま幸せなんです」。りんが人生に求めているのは自立であり、家族と暮らす平穏なので、あえて結婚を選択する必要がないということだろう。

 押しの強い横沢は「私といたら、もっと幸せになれますよ」と食い下がるものの、タイミングではないと判断すると撤収も早い。それ以上りんに断りの文句を言わせず、決定的な破局に至る前に辞去する見きわめの速さ。警官に目を付けられ投獄されるなど、通常の損得勘定で動かない横沢は、男女の機微においても個性を発揮している。

 さて、シマケン(佐野晶哉)である。シマケンが原稿に行き詰まっていたのは、りんのことが気になっていたからだろう。帰京したりんにいつ会いに行けばいいのか。すぐにでも行きたいが、今行ったら邪魔になってしまわないかと気をもんでいたのではないか。意を決して、野花を摘んで一ノ瀬家へ向かった。その門前で横沢とばったり鉢合わせる。

 恋のさや当てが、一方はいたって戦略的に、もう一方はまったく無自覚に繰り広げられる。りんは心に決めた人はいないと言っていたが、答えるまで少し間があった。横沢としては、もしライバルがいるならこの男だとシマケンを意識しており、結婚を申し込んできたとブラフをかけ、ギリギリ嘘にならない言い方で好感触を匂わせる。シマケンの動揺は瞳の表情から伝わってきた。

 「あれ、お墓参りですか」はいかにも意地悪だが、横沢としては、決定的な負けを回避して自分にチャンスの芽を残す意味で、物理的また心理的にシマケンをりんから遠ざけることは、そのときできる最善手といえる。そんな駆け引きが行われていることを、当の本人であるりんはまったく知らないのだが。男性同士の心理戦を描く脚本と演出の手腕が冴えわたっていた。

■放送情報
2026年度前期 NHK連続テレビ小説『風、薫る』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:見上愛、上坂樹里
脚本:吉澤智子
原案:田中ひかる『明治のナイチンゲール 大関和物語』
制作統括:松園武大
プロデューサー:川口俊介
演出:佐々木善春、橋本万葉ほか
写真提供=NHK

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