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『天幕のジャードゥーガル』Abel監督×三角P対談 サイエンスSARUが目指した“新しい表現”

映画では『犬王』や『きみの色』、TVシリーズでは『平家物語』や『ダンダダン』といった話題作を次々と送り出しているアニメーション制作会社がサイエンスSARUだ。この7月からは士郎正宗の漫画を原作にした『攻殻機動隊 THE GHOST IN THE SHELL』と、トマトスープの漫画が原作の『天幕のジャードゥーガル』という2本のTVシリーズがスタート。このうち『天幕のジャードゥーガル』は、勇壮な歴史と壮大な自然を持つモンゴルを舞台に、運命に抗い戦った女性たちの姿を描くという挑戦的な内容となっている。サイエンスSARUがどのような経緯でこの作品のアニメ化を手がけることになったのか、そしてどのような映像にしていくのかを、Abel Gongora監督と三角理恵アニメーションプロデューサーに聞いた。
歴史ものではなく“新しい表現”を求めて

――『天幕のジャードゥーガル』は「このマンガがすごい! 2023」オンナ編で第1位になり、マンガ大賞にも2023年と2024年にノミネートされて大いに注目を集めていた漫画です。アニメ化の希望も多かったと思いますが、今回サイエンスSARUが制作を手がけることになった経緯を教えてください。
三角理恵(以下、三角):テレビ朝日のプロデューサーの遠藤一樹さんから「ぜひサイエンスSARUさんで」という形で企画をいただいたことがスタートでした。

――サイエンスSARUというと、平安末期の源平合戦を描いた山田尚子監督の『平家物語』や、室町初期の能楽の秘史を描いた湯浅政明監督の『犬王』といった歴史もののアニメをいくつも手がけた実績があります。モンゴルの歴史を描く『天幕のジャードゥーガル』を引き受けた背景には、そうした歴史もののラインアップをスタジオのレガシーとしていこうといった意図があったのでしょうか。
三角:特にそこを意識して作品を選んでいるということはありません。いただいた企画がたまたま歴史もので、アニメーションにしたらとても面白そうだと感じました。『犬王』と『平家物語』は制作期間が近かったのですが、描かれている時代が近いのにビジュアルも方向性もまったく違う作品になりました。歴史もののグラデーションを深めていこうというよりは、表現として常に新しいものを作っていきたいという気持ちがあります。『天幕のジャードゥーガル』にもそうした気持ちが表れていると思います。

――『天幕のジャードゥーガル』を山田総監督とともに手がけることになったAbel Gongora監督は、サイエンスSARUで『スター・ウォーズ:ビジョンズ』の「T0-B1」や『スコット・ピルグリム テイクス・オフ』、そして『ダンダダン』第2期を監督してきました。これらの作品と歴史ものの『天幕のジャードゥーガル』では少しタイプが異なります。どのような意図からの起用となったのでしょう?
三角:この作品は、ルックとしてはかわいらしいのですが、物語自体は結構シリアスな内容です。アクションよりはドラマ性の強い作品で、今までAbel監督が作ってきた『スコット・ピルグリム』であったり『ダンダダン』であったりといった作品とは異なるタイプの作品だと思います。そうした中で、Abel監督なら新しい演出を見せてくれるのではないかという期待から監督をお願いすることになりました。あと、Abel監督が『アルプスの少女ハイジ』のような作品が好きだと聞いていたので、本作にも通じる部分があると思い、それもあって原作を読んでもらうことになりました。
Abel Gongora(以下、Abel):新しいプロジェクトの話にはいつもワクワクします。特に『天幕のジャードゥーガル』は、私自身が以前からモンゴルに興味を持っていたこともあり、本当に面白いと思いました。漫画を読んでいるうちに、モンゴルだけでなくペルシャの歴史にも興味を持つようになりました。それでぜひ関わりたいと思ったんです。

――モンゴルに興味があったということですが、どのようなところにですか?
Abel:ソーシャルメディアでもあまり話題にならない国だと思うからです。観光サイトやインフルエンサーが話題にするような国と違って、もっと純粋で独自の魅力を持つ場所なのではないかと思いました。世界中の都市がどこも似たような見た目になっていくなかで、もう少し静かでオーセンティックな場所を探していたんです。モンゴルはまさにそのような場所でした。写真で見てもどれも美しくて、何か特別なものがあるのかもしれないと思いました。
――『天幕のジャードゥーガル』の監督を引き受けるにあたって、過去に自分が手がけた作品との違いは気になりましたか? また、トマトスープ先生の独特の絵柄に対して、映像化への挑戦意欲をかき立てられた部分はありましたか?
Abel:キャラクターの絵柄についてですが、過去に同じような雰囲気のプロジェクトに携わったことがあるんです。『スター・ウォーズ:ビジョンズ』「T0-B1」では手塚治虫やかつての東映アニメーション作品のような古典的なアニメーションの絵柄から影響を受けています。『スコット・ピルグリム』にも、大きくデフォルメされた頭や手を持つキュートなキャラクターが登場します。一方で『天幕のジャードゥーガル』はストーリーがかなりシリアスです。モンゴル帝国の物語というと、モンゴル軍が他の国を侵略し、多くの人々を殺したといったイメージを持つ人も多いでしょう。非常に残酷な側面を持つ歴史を背景にしながら、そんな彼らを一人ひとりの人間として、ある種キュートな人物として描くのは、とても興味深いことでした。

――確かに『天幕のジャードゥーガル』は、モンゴル帝国の侵攻で主人を殺されたシタラという奴隷の少女が、モンゴル帝国の皇帝の妃となったドレゲネと共に復讐を画策するというハードでシリアスなストーリーです。
Abel:主人公のシタラは復讐心の強い女性です。欧米の映画ではあまり見かけないタイプの主人公像だと思います。シタラは必ずしもヒーローのように振る舞うわけではなく、ときには意地悪なところがあったり、少し陰のある部分をのぞかせたりもします。ドレゲネも同じです。憎しみをあらわにしながらも、ときには優しさも見せます。そういった善悪だけでは割り切れない感情や行為をキュートなビジュアルで描くというコントラストに面白さを感じました。
制作チームが挑んだ“史実”と“アニメーション”の両立

――実際の歴史を描く作品である以上、舞台となっているモンゴルやペルシャの文化についても慎重な描写が求められると思います。その点で、アニメの『天幕のジャードゥーガル』はペルシャのバザールの雰囲気も、モンゴルのゲルの中の様子も実に精緻に描かれています。やはり相当にリサーチしたのでしょうか?
Abel:たくさん調査しました。モンゴルやペルシャの専門家の方々にも協力していただきました。物語をより分かりやすくするためにアレンジを加えた要素もありますが、できる限り歴史に忠実でありたいという思いで取り組んでいます。ただ、当時のモンゴルは遊牧文化が中心だったため、大都市のようなものがそれほど存在していませんでした。記録が残っていない部分も多く、自分たちで想像するしかありませんでした。だからこそ、モンゴルやペルシャにルーツを持つ人たちがこの作品を観てどう感じるのか、とても気になります。自分たちの文化が尊重されていると感じてくれたり、彼らにとっても納得感のある作品になっていたら、何より嬉しいです。

――今はアニメが配信などを通じて世界中に届く時代です。舞台となる地域や文化が正しく描かれていることが、そうした国々の人に受け入れてもらう上でとても大切になります。
三角:イスラム考証の先生とモンゴル考証の先生についていただきました。宗教まわりについても専門家の先生に協力していただき、脚本の段階からチェックをお願いしました。キャラクター設定や美術設定をはじめ、作品全体に関わる部分についてコメントをいただいています。そうした先生たちのアドバイスを参考にしつつ、たとえば登場人物が多いのを視聴者にわかりやすくするために服装の色のコントラストをあえて強める表現を取り入れたりした部分もありました。
Abel:当時の資料が残っていない部分については、その地域の後の時代の資料も参考にしました。もちろん時代による違いはありますが、文化への理解を深める手がかりになると考えたからです。



















