『ばけばけ』出産と結婚描写は“直球”でもよかった? ふじきみつ彦らしい“螺旋”的展開

『ばけばけ』ふじきみつ彦らしい“螺旋”展開

 上がるか下がるか螺旋階段、ぐるぐる渦巻き螺旋階段。「螺旋怪談」という怪談はない。『ばけばけ』は怪談のドラマでもない。朝ドラことNHK連続テレビ小説『ばけばけ』第22週「アタラシ、ノ、ジンセイ。」(演出:小林直毅)では、トキ(髙石あかり)がヘブン(トミー・バストウ)の子供を身ごもった。単純におめでたいことだと傍からは思えるが、トキの気持ちは螺旋階段のように上がったり下がったりぐるぐるしている。

 螺旋階段とは第106話でラン(蓮佛美沙子)がトキに語った偏愛しているものだ。トキが「怪談」を好きと聞いて「階段」と間違えたというベタなダジャレである。螺旋という形状は奥深く、人生を物語るようである。ふじきみつ彦がどこまで意識しているのか定かではないが、何を書いても決して高尚に見せないのが逆にセンスがいいと筆者は思う。

 トキの出産シーンもそうだ。最近の朝ドラでは久しぶりにたっぷり尺をとっていた。ヒロインがいきみ、ヘブンたちが待ちわび、赤ん坊が生まれ、ヘブンたちが喜び、赤ん坊を見て家族全員ほっこりする。その流れを第110話でしっかり描いた。だが、そこにふじき印のようなものがしっかり入る。出産シーン自体はオーソドックスながら、ヘブンや書生たちがてっぽう(相撲取りの稽古のひとつで柱を突くもの)を打ったり、子供が生まれたら籍はどうするのかという超現実的な問題まで描き出したり、ほっこりする間がない。

 この出産シーンに関して、橋爪國臣制作統括はこう語っている。

「髙石さんが朝ドラヒロインを目標にしていたことはすでに有名なお話になっていますが、朝ドラヒロインになったら出産シーンを演じたいとも思っていたそうです。『出産シーンはありますか』と事前に聞かれていました(笑)。かといって、聞かれたから用意したわけではありません。物語として必要なシーンだったので描きましたが、髙石さんは『夢がかないました!』ととても喜んでいました」(※)

 髙石が出産シーンを希望していなかったら、もしかしたら、このようにたっぷり描かなかったかもしれない。

 橋爪制作統括はさらに「もちろん出産は喜ばしいことです。ただ、この週で描きたかったのはそれだけでなく、トキとヘブンの関係でした」と説明している。

「子どもは問答無用に強力な存在で、子どもができるとすべてが子どものためになりがちです。子どものために働く、子どものために別れない、など生きる軸が子ども中心になる。それでいいと思う半面、それでいいのかなという疑問もあると思うんです。そこで第110回の『しっかり結婚しませんか』で、ふたりが確かに結びついたうえで子どもと生きるように描きたいと考えました」(※)

 この回答、ごもっとも、と思う一方で、ちょっと引っかかるところもある。なぜ、これまでふたりはしっかり結婚しなかったのだろう。

 国際結婚の歴史に関して、筆者は拙著『みんなの朝ドラ』の『マッサン』の項でにわかであるが勉強したので印象に残っている。明治6年(1873年)に日本政府は「内外人婚姻規則」を公布した。その規定内容がどういうものであれ、異国人と婚姻することは可能なのである。ただし、それによって日本人は日本国籍を失うのが決まりになっていた。

 さらに遡って、慶応3年(1867年)に江戸幕府が条約締結国の国民と日本人との婚姻を認めている。

 江戸(東京)から離れた松江では国際結婚という概念は考えられなかったのだろうか。だとしても結婚したとき、ふと戸籍のことを考えなかったのだろうか。前例がなくても試してみようとは思わなかったのだろうか。愛するふたりが自分たちは夫婦と認識し、一緒に暮らしていればそれで良かったのか。ただ、このドラマのなかのトキの描写が、正式に結婚していないということに対して、どこか気にしているように見えることが気になっていた。いまだにイライザ(シャーロット・ケイト・フォックス)の手紙を気にしているように見せるし、ランが夫・ロバート(ジョー・トレメイン)が外国に行くなら別れると言うことに影響されて、ヘブンが外国に行くときは自分は置いていかれると不安に思っている。最初にヘブンにフィリピン行きの話が来ていると知ったときの逆上ぶりも激しいものだった。

関連記事

リアルサウンド厳選記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる