中島歩×草川拓弥が織りなす悲哀とおかしみ 『俺ババ』が投げかける現代社会へのメッセージ

『俺ババ』が放つ現代社会へのメッセージ

 ドラマフリークなら見逃せない、金曜深夜枠「ドラマ25」。今期放送中の『俺たちバッドバーバーズ』(テレ東系)が終盤戦に入った。

 原宿でカリスマ美容師の夢に敗れた40歳の日暮(中島歩)が、ヒッチハイクの末にたどりついたのは田舎町のさびれた理容店。そこで彼は、経営者であり、理容師の影で「裏社会の何でも屋」“裏用師”を兼業する月白(草川拓弥)と出会う。バカ熱い日暮と、冷血漢の月白という正反対のふたりによるバディが、依頼を通じてさまざまな人間模様と対峙していく。

 監督・脚本を務めるのは『ベイビーわるきゅーれ』シリーズを手がけた阪元裕吾(監督に平波亘・泉原航一、脚本にオノ・マサユキも参加)。阪元監督によると、企画のスタートでは「中島歩と草川拓弥のW主演」ということだけが決まっていて、そこから構想を練り、脚本を作っていったのだという。

 つまり中島歩と草川拓弥への「完全当て書き」ということになるのだが、知的でクールな役柄が多い中島に天然で“ダサ優しい”日暮というキャラクターを、ベビーフェイスの草川に「複雑な生い立ちから感情に蓋をした凄腕の裏用師」を当てる、いわゆる「逆張り作劇」が成功している。

 中島は出演が決まるや、役作りの過程としてまず日暮のトレードマークである、後ろ髪を長く残した「マレットヘア」を決めたのだという。この髪型と80年代テイストの“ダサ懐かしい”衣装が日暮を演じるのに欠かせないファクターであると、中島は複数のインタビューで語っている。民放連続ドラマでは初主演となる『俺ババ』は、現時点で中島の代表作と言って間違いないのではなかろうか。それほどに中島が日暮に心血を注いだ跡が見てとれる。やはりこの日暮という男が愛すべき存在でいられるか否かが、本作の明暗を分けるのだ。

 草川はかつて、2024年の阪元作品『ベイビーわるきゅーれ エブリデイ!』(テレ東系)にも出演。殺し屋協会のプロジェクトマネージャー・夏目を演じ、ボスと下請けの板挟みに悩まされた末の「逆ギレ演技」が秀逸だった。『俺ババ』では、夏目とはまた異なり、感情が何層にも入り組んだ月白という難役を、抑制の効いた芝居で乗りこなしている。

 日暮も月白も、やり過ぎてしまえば、とたんに寒くなってしまう難しい役どころだ。しかし、中島・草川、両者ともに絶妙な匙加減で演じている。阪元裕吾をチーフに据えた監督陣や衣装など、スタッフの絶妙な塩梅も大きいのだろう。ドラマはぶっ飛んだ設定でありながら、時折日暮がこぼすおかしくもどこか切ない独り言がやたらとリアルで、「生身の人間」を感じさせる。『ベビわる』シリーズでも表現されていた「非日常と日常の連続性」が、今作『俺ババ』でも健在だ。

 「殺しはしない。ルールはない。相手が負けを認めるまでやる」が裏用師のルール。この3つさえ遵守すればなんでもありの裏稼業だ。日暮は「月白理容室」で偶然にも依頼の「暗号」を口にしてしまったことをきっかけに、月白の裏用師の仕事を手伝うことになる。

 善人で、喧嘩が弱い日暮が裏稼業に巻き込まれるという、一見シンプルな筋立てで物語は始まるが、回を重ねるごとに月白が日暮のペースに巻き込まれて、調子が狂っていくところが面白い。作品全体は荒唐無稽で劇画的なテイストでありながらも、「何だかんだいって人と人は影響し合わずには生きていけない」「拳は何のために使うのか」といった裏テーマもきちんと仕込まれている。

 幼き日に目の前で両親を惨殺されたトラウマを抱える月白は、感情を捨てて生きてきた。合理主義に徹し、食事は3食、365日、カップ焼きそばのみ。そんな彼の固く閉ざした心を、バカ熱い日暮がノックしていく。

 日暮から「野菜も食べたほうが」と言われて、月白は生まれて初めてロールキャベツを口にする。日暮の“母性”に、蓋をしていた両親との記憶が蘇る。コーヒーは豆から挽いて淹れたほうが美味しいし、プリンも手作りのほうが美味しいと気づく。月白の日常に、だんだんと温もりが宿っていく。

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