『明日はもっと、いい日になる』が描く児童相談所のリアル “正義感”が引き起こす弊害も

『明日はもっと~』が描く児相のリアル

 翼も正義感を振りかざして突っ走るだけの人間ではない。困っている人を見たら周りが見えなくなる自分の性格も十分に理解しており、間違ったと思ったら素直に反省できる柔軟性もある。ただ、なかなか刑事の癖が抜けず、“加害者“と“被害者”の二元論で物事を判断してしまうところも。だから、拓斗が「ママに叩かれた」と証言し、家に帰ることを拒絶するや否や、翼は加奈を“加害者”として遠ざけようとする。

 たしかに一時保護所に乗り込み、拓斗に対して感情的に詰め寄る姿を見ると、そう思ってしまうのも致し方ないのかもしれない。一旦、“加害者”のレッテルを張ると、人はすべてに疑いの目を向けてしまうものだ。

 しかし、加奈が過労とストレスで倒れたことをきっかけに想像もつかなかった真実が見えてくる。3年前に夫と離婚してから、女手一つで拓斗を育ててきた加奈。母子家庭だからといって子どもに苦労はかけたくなかった彼女は仕事も家事も完璧にこなそうとしてきた。夫からの養育費が途絶えてからは1日12時間働き、睡眠はたったの3時間。玄関に並ぶ、拓斗の新品の靴と加奈のボロボロになった靴は愛情の証だ。

 だが、肉体的にも精神的にも追い詰められていた矢先、家出した拓斗を見つけた加奈は思わず頬を叩いてしまう。児童虐待防止法によれば、一度でも叩くと虐待になるとはいえ、拓斗が強く加奈を拒絶するのには他に理由があると考えた翼。一時保護所を抜け出した拓斗が海辺で探していたという“ニコちゃん”を根気強く探し、その姿がずっと口を噤んでいた拓斗の心を動かす。

 拓斗が探していたのは、かつて加奈にもらったニコちゃんマークのお守りだった。そのおかげで笑顔になれた経験から、加奈にも笑顔になってほしくてニコちゃんをかいたパンケーキを作ろうとした拓斗。しかし、失敗してしまい、拓斗は自分がいる限り、加奈は幸せになれないと思ったのだろう。お守りとともに母親と一緒にいたいという思いを捨て、自分たちが強制的に引き裂かれるような嘘をついたのだ。それを知った加奈は拓斗のために頑張っていたはずが、いつしか自分の意地のためへと目的がすり替わっていたことに気づく。

 「ごはんなんかまずくていい。服だって汚くていい。全部、全部いらないから、もっとママと一緒にいたい。ママには笑っててほしい」という拓斗の本音を聞き、「無償の愛は親から子ではなく、実は子から親への愛のこと」という言葉を思い出した。一時保護されている子どもたちも事情はそれぞれ異なるが、誰もが必ずいつかまた両親と暮らせることを願っている。児相の仕事は親の罪を暴いて子どもと引き離すことではなく、子どもの親と一緒に暮らしたいという当たり前の願いを叶えるために支援することなのだろう。

 拓斗と加奈のケースから、児童心理司の向日葵(生田絵梨花)から言われた「私たちが向き合ってるのは、事件じゃなくて家族なの。そこにいるのは親と子。ただ、それだけ」という言葉の意味を理解した翼。令和5年度(2023年度 ※最新)の全国の児童相談所における相談対応件数は58万5,934件。うち児童虐待の相談件数は過去最多の22万5,509件となった。その数だけ、安易に第三者が加害者と被害者に分けられない親子の事情がある。「僕たちが見なきゃいけないのは一人じゃない」という蔵田の言葉の裏には、翼のように一つひとつのケースに入れ込んで、周りが見えなくなってしまった過去があるのかもしれない。しかし、加奈に渡した資料に書いた不器用な絵が“いい人”を捨てきれない蔵田の性格を表しているような気がした。

『明日はもっと、いい日になる』の画像

明日はもっと、いい日になる

児童相談所を舞台に、そこで働く個性的な面々たちがこどもたちの純粋な思いに胸を打たれ、その親までも救っていく姿描く完全オリジナルストーリーのヒューマンドラマ。

■放送情報
『明日はもっと、いい日になる』
フジテレビ系にて、毎週月曜21:00~21:54放送
出演:福原遥、林遣都、生田絵梨花、小林きな子、濱尾ノリタカ、莉子、西山潤 町田悠宇、勝村政信、風間俊介、柳葉敏郎ほか
脚本:谷碧仁(劇団時間制作)ほか
演出:相沢秀幸、下畠優太、保坂昭一
プロデュース:宮﨑暖
主題歌:JUJU「小さな歌」(ソニー・ミュージックレーベルズ)
制作プロデュース:熊谷理恵、三浦和佳奈
制作協力:大映テレビ
制作著作:フジテレビ
©︎フジテレビ
公式サイト:https://www.fujitv.co.jp/ashitawamotto/
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