『あんぱん』鳴海唯はこれからのドラマ界を支える存在だ 意外な“二面性”の魅力

『あんぱん』鳴海唯、“二面性”の魅力

 思い返せば、今回の『あんぱん』が初めてのNHK作品ではないという事実もまた、大きい。『なつぞら』で演じた柴田明美。大河ドラマ『どうする家康』の稲。いずれも、物語の真ん中で必ずしも光を浴びる役ではなかったかもしれないが、物語の空気を支え、登場人物たちの輪郭を際立たせる存在として、確かな爪痕を残してきた。NHKドラマは、派手な見せ場よりも、行間に潜む人間らしさをきちんと伝えられる俳優を必要とする場だ。『あんぱん』での琴子という役は、その信頼の延長線上にある気がしている。過去の現場で蓄えてきたものすべてを、今度は自らの言葉と表情で開放していく番が、ようやく巡ってきたのかもしれない。

 今作で演じる琴子は、普段は抑えているが酒が入ると饒舌になるという二面性のあるキャラクターだ。鳴海自身が、オーディションシートに「私はアンパンマンのような人になりたい」と記したというエピソードに象徴されているように、静かなように見えて、芯のどこかに正義と熱、ユーモアを隠し持っている(※)。だからこそ、琴子が酔ったときの言葉は、ただの酒席の戯れ言ではなく、物語の奥底に眠っていた真意を照らす火種になりそうな予感がする。

 一見おしとやかでありながら、その奥にしたたかな強さを忍ばせ、状況が変われば人前で迷いなく言葉を放つ。鳴海がこれまでの現場で少しずつ磨いてきたのは、役の奥に眠る人間らしさの振れ幅を自分の体ごと引き受ける、その柔らかさと胆力だ。琴子という人物が、『あんぱん』という物語の中で何を語り、誰の心を動かすのか。そして、視聴者の記憶にどんな爪痕を残すのか。大きな見せ場で一気に光を浴びるのではなく、静かに、しかし確実に、物語の根を支える役として残っていくのだろう。

 この物語が終わったとき、誰かがふと「鳴海唯の琴子がいたから、この物語は心に残る物語になった」と振り返る日が来るだろう。その日を楽しみに、彼女の言葉と沈黙を、しっかりと目に焼き付けておきたい。

参照
※ https://www.nhk.jp/p/anpan/ts/M9R26K3JZ3/blog/bl/plEA1a8GGl/bp/p1m69YEZGo/

■放送情報
2025年度前期 NHK連続テレビ小説『あんぱん』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00〜8:15放送/毎週月曜〜金曜12:45〜13:00再放送
BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜8:15〜9:30再放送
BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:今田美桜、北村匠海、加瀬亮、江口のりこ、河合優実、原菜乃華、細田佳央太、高橋文哉、中沢元紀、大森元貴、二宮和也、戸田菜穂、浅田美代子、吉田鋼太郎、竹野内豊、妻夫木聡、阿部サダヲ、松嶋菜々子
音楽:井筒昭雄
主題歌:RADWIMPS「賜物」
語り:林田理沙アナウンサー
制作統括:倉崎憲
プロデューサー:中村周祐、舩田遼介、川口俊介
演出:柳川強、橋爪紳一朗、野口雄大、佐原裕貴、尾崎達哉
写真提供=NHK

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