『あんぱん』鳴海唯はこれからのドラマ界を支える存在だ 意外な“二面性”の魅力

『あんぱん』鳴海唯、“二面性”の魅力

 NHK連続テレビ小説『あんぱん』の新たな登場人物・小田琴子。彼女を演じるのは、これまでに等身大の存在感をまとってきた俳優の鳴海唯だ。この役は、彼女がこれまで積み重ねてきた軌跡の延長線上にあるだけでなく、その集大成として語られるべき“おいしい役”であるように思える。

 物語は、戦後という未曾有の時代を背景に、主人公たちが新たな言葉と暮らしを模索していく姿を描いている。その中で、琴子は戦後初の女性記者としてペンを握り、時に声を抑え、時に杯を重ねては本音をこぼす。おしとやかな顔と、酔えば溢れ出す饒舌さといった相反するものをひとりの人間の中に共存させられるかどうか。それは、鳴海という俳優の武器がまさに問われる挑戦だ。

 鳴海がここまで歩んできた道のりは、派手なヒロイン街道を真っすぐに駆け抜けてきたものではない。大きな予算も宣伝もない、小さな映画や実験的な作品の中で、彼女はしばしば言葉にしきれない感情や、物語の余白に潜む影のようなものを引き受けてきた。

 代表作の一つとなっている『偽りのないhappy end』でのエイミ役は、まさにそうした彼女の本質を体現している。失踪した妹を探しながら、どこにも吐き出せない罪悪感を抱え込む姿は、観客の心を静かに締めつけた。段取りをなぞるだけではなく、現場で立ち上がる空気を吸い込み、計算と偶然のはざまで息をする演技は素晴らしいものがあった。

 『熱のあとに』では、愛という得体の知れないものの輪郭を探る物語の一端を背負い、主人公だけでは届かない問いを観客に届けた。大役でなくても、物語の奥行きをすくい取りながら、その一瞬一瞬に血を通わせる感覚が、彼女の演技の土台になっている。

 『Eye Love You』(TBS系)で見せたのは、語学という高いハードルを越えての挑戦だった。韓国語を自在に操る同僚役というだけでも難度は高いが、言葉の壁を越えてキャラクターの心を柔らかく伝えるには、機械的なセリフ回しでは到底足りない。異国の言葉を自分の血肉のように扱いながら、物語の温度を保つそのバランス感覚は、スクリーンの中だけで役を生きてきた彼女だからこそに思えた。そして『あのクズを殴ってやりたいんだ』(TBS系)では、恋愛でも事件でもない、生活の重さを担った役どころを演じ切った。派手な台詞回しがなくとも、観る人の心に刺さる“等身大”のリアルさを、細部の所作と声の揺らぎで刻んだ。

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