倉悠貴、2度目の朝ドラで担う“変化の役割” 『あんぱん』における戦後の希望に

倉悠貴、『あんぱん』で担う“変化の役割”

 朝ドラ『あんぱん』(NHK総合/2025年度前期)の世界に、また再び明るい時間が戻ってきた。第11週より続いていた“戦争パート”が終わり、ドラマの舞台はヒロイン・のぶ(今田美桜)の生まれ故郷である高知へ。戦中を描いていたとあって、ここしばらく物語は非常に重苦しいものだった。そこではいくつもの悲しい別れがあった。けれども戦争が終わったいま、のぶたちはより良い未来に向かって歩きはじめたところだ。誰かとの新しい出会いがあれば、それは彼女の生きる環境をも変える。そんなひとりが岩清水信司という青年。演じているのは倉悠貴である。

 本作は、あの『アンパンマン』の生みの親である夫婦をモデルに、のぶと、やがて彼女の夫となる嵩(北村匠海)の激動の生涯を描いていくものだ。日本中で愛され続ける作品とキャラクターがいかにして誕生したのか、私たちは本作をとおして知りつつあるところ。楽しいことも苦しいことも、人生のありとあらゆる瞬間が、国民的キャラクターの誕生に影響しているのである。

 第14週「幸福よ、どこにいる」では、のぶが戦後初の女性記者として高知新報に入社。この入口をつくったといえるのが、倉が演じる岩清水信司だ。闇市で上司の東海林明(津田健次郎)の酒に付き合っていたところ、のぶと出会った。熱血漢だがどこかいい加減なところのある東海林とは対照的に、しっかり者の好青年だ。同僚となったのぶにどのような影響をもたらすのか、注目すべき存在だろう。

 こうして倉が物語の新展開の一翼を担ったわけだが、彼自身はすでに注目すべき若手俳優たちの枠から飛び出し、現在の日本のエンターテインメントシーンの中核を担う存在になりつつある。「朝ドラ」のファン的には、やはり『おちょやん』(2020年度後期/NHK総合)でヒロイン・千代(杉咲花)の弟である竹井ヨシヲを演じていたのを、いまでも鮮明に記憶しているのではないだろうか。ヨシヲは幼くして生家を飛び出し、裏社会と関わりながら生きる人物だった。その生き様も、最期も、非常にセンセーショナルなものだった。当時の倉は21歳。俳優デビューを果たしてからまだ2年しか経っていない頃のことである。

 デビューしてからたったの2年のうちに「朝ドラ」に出演、それもヒロインの弟役というのは、いわゆる大抜擢である。俳優の仕事というのはいろいろな縁によって成立するものだが、それは特定のキャラクターを表現する最低限の技術やセンスがあってこそ。この当時の倉は新人だったわけだが、製作陣の目には彼が特別な存在として映ったのだろう。事実、倉はヨシヲという複雑なキャラクターをひたむきに体現しようとし、深みのある愛すべき存在にしてみせた。主演の杉咲花をはじめ、手練れの演技者たちが揃っていただけに倉の演技は瑞々しく感じられ、それでいて器の大きさをも感じさせられたものだ。

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