『あんぱん』が描くマスメディアへの懐疑 のぶと東海林の“反省会”で語られたこと

その片棒を担いだ東海林は、「自分に愛想が尽きちょる」と表現する。自分たちが書いた記事で、国民に犠牲を強いる結果になった。ふたたび筆を執ったときに苦い気持ちになっただろうことは想像に難くない。のぶも同じ経験をしていて、教師を辞めてここにいるわけだが、そののぶが東海林に言った「記者はどこまで行っても世の中に問い続けるしかない」は、迷える東海林を報道本来の使命に、過去にとらわれた思いを現在に引き戻す意味があった。

子どもたちに誤った思想を教えて、戦地へと向かわせた自分が「自分の言葉で記事を書いて、人の心に訴えかけるがは正直恐ろしい」とのぶは語る。のぶがまともなのは、そのことを直視していることで、同じように逡巡を抱く東海林もまっとうな感性の持ち主といえる。仮に過去に何もなかったとしても、言葉を扱うことをなりわいにする人間に、その自覚がなくなったら終わりだ。筆者も自らを顧みたい。
戦争が終わり、民主主義国家になって、平和憲法ができてめでたしめでたし、とならないところに今作の誠実さを感じる。正義を美化しないし、盲目的に信じない。でも、それを信じてしまう私たちの心にあるものを丁寧に、言葉にして掬い取っていく。その作業をやめてしまえば、フィクションの形式を借りた空疎な別の正義にしかならないことを、作り手は自覚しているのだ。

場面が変わり、嵩(北村匠海)は健太郎(高橋文哉)と、闇市で進駐軍のガラクタを売っていた。圧倒的な物量に支えられた豊かさという現実。自分たちが相手にしていたのは、何だったのか。そんな思念をよそに、なんとか生き延びなくてはならない。嵩が目を輝かせたアメリカの漫画。メイコ(原菜乃華)が見つめるラジオの『のど自慢』。心が動く方向に明日はある。未来はどんな姿をしているだろうか。
■放送情報
2025年度前期 NHK連続テレビ小説『あんぱん』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00〜8:15放送/毎週月曜〜金曜12:45〜13:00再放送
BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜8:15〜9:30再放送
BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:今田美桜、北村匠海、加瀬亮、江口のりこ、河合優実、原菜乃華、細田佳央太、高橋文哉、中沢元紀、大森元貴、二宮和也、戸田菜穂、浅田美代子、吉田鋼太郎、竹野内豊、妻夫木聡、阿部サダヲ、松嶋菜々子
音楽:井筒昭雄
主題歌:RADWIMPS「賜物」
語り:林田理沙アナウンサー
制作統括:倉崎憲
プロデューサー:中村周祐、舩田遼介、川口俊介
演出:柳川強、橋爪紳一朗、野口雄大、佐原裕貴、尾崎達哉
写真提供=NHK






















