『あんぱん』のぶは『おかえりモネ』百音に似ている? “わからない”主人公を描く意義

『あんぱん』と『おかえりモネ』の共通点

「サラバ 涙」

 NHK連続テレビ小説『あんぱん』第13週(演出:野口雄大)のサブタイトルのようにのぶ(今田美桜)たちは涙を拭って前を向く。

 戦争が終わって新しい時代がやってきた。日本は戦争に負けて、軍国主義はなかったことになり、教科書は墨で黒く塗りつぶされた。子どもたちに軍国主義を教えていたのぶは責任を感じて教師を辞める。弱り目にたたり目、次郎(中島歩)が肺病で亡くなり途方に暮れるのぶ。

 とそこへ嵩(北村匠海)が戦場から帰ってくる。のぶを心配して高知の焼け跡に訪れた嵩にのぶは涙ながらに「あの子らの自由な心を塗りつぶして。あの子らの大切な家族を死なせて。うち生きちょってえいがやろうか。うちは……生きちょってえいがやろか」と問いかける。

 嵩は静かに答える。

「のぶちゃん、死んでいい命なんてひとつもない」

 戦場で嵩が体験した、それぞれの正義がぶつかりあい生と死に分かれてゆく過酷な状況。それが彼に深い思索を与えたかのように見える。

 嵩に慰められたのぶは次郎の残した速記の本で勉強をはじめた。そこで次郎が亡くなる前に書き記した文章を解読する。

「自分の目で見極め 自分の足で立ち 全力で走れ 絶望に追いつかれない速さで それが僕の最後の夢や」

 次郎の夢は、思いがけない形で実現に向かう。のぶは、焼け跡で高知新報の東海林(津田健次郎)と会い、新聞記者の道を歩むことになるのだ。

 のぶは入社試験の面接で「今度こそ間違えんように まわりに流されず、自分の目で見極め 自分の頭で考え ひっくり返らん確かなものをつかみたいがです」と語る。

 達観したような落ち着いた表情をしている嵩に対して、のぶの瞳はまだ揺れている。ただし、ふたりともまだ正しいことが何か「わからない」でいる状況であることは同じだ。嵩は何が正しいかわからないけれど、戦争がいやだと思ったことや、死んでいい命なんてひとつもないと思うことには揺らぎがない。その思いをどうやって守っていけるか、その方法がわからず、探している。一方、のぶは、軍国主義は間違っていたけれどアメリカの民主主義が正しいかわからない。このまま転向する気持ちになれないでいる。大勢に倣わず、これから自分が何が正しいか、考えていこうとしていた。

 「自分の目で見極め 自分の頭で考え ひっくり返らん確かなものをつかみたい」というのぶの望みに新聞社という報道機関は最適かもしれない。そこでは「実際どうなのか?」と自分で取材して真実を確かめることが仕事なのだから。ただし、ジャーナリストもまた、会社の方針や、国の方針によって報道内容を調整していることもある。高知新報は、東海林は、そしてのぶは、どういうスタンスで記事を書くのだろう。

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