『最後から二番目の恋』最終回の多幸感を反芻したい 千明が“老い”とともに歩いた人生

『続・続・最後から二番目の恋』(フジテレビ系)最終回で、ついに還暦を迎えた千明(小泉今日子)。60本のロウソクで燃え盛るケーキはインパクト抜群で思わずクスッとさせられた。今は数字のロウソクもあるけれど、律儀に年齢の数だけロウソクを立てる。それが、長倉家のスタイルだ。
「このロウソクの数はこれまであなたが頑張ってきた証なんです。あなた、こんなにたくさん頑張ってきたんですよ。それを、10年を太い1本でなんて、そんな大ざっぱなことはできません」
ファーストシーズンで描かれた千明の46歳の誕生日会で和平(中井貴一)がそう語った。あの時、少し気まずそうにしていた千明が真っ赤なちゃんちゃんこを素敵に着こなし、みんなに囲まれて、「もっと生きまーす!」と誇らしげに笑っている。それが自分ごとのように嬉しいのと同時に、“集大成感”が寂しく、最後は泣き笑いのような顔になった。

千明が老いることを肯定的に受け入れ、未来に希望を持てるようになったのは長倉家に出会えたからに他ならない。物語は長倉家の隣にある鎌倉の古民家に千明が移り住んでくることから始まる。千明が一軒家購入に踏み切ったのは、1人で生きていくことへの不安と孤独から独身仲間の啓子(森口博子)、祥子(渡辺真起子)と一緒に住むためであり、ある意味“最後”を意識したからだ。結局、2人には土壇場で裏切られてしまうが、40代にして終の棲家を手に入れたことで千明にはどこか“やりきった感”があったのではないだろうか。
他社のインタビューで脚本家の岡田惠和が自身も40代で一軒家を購入したことを明かし、「その頃からやっぱりわりと死に向かって生きてるんだなみたいなことを考えるようになったのかもしれないですよね。きっともうこれ以上良いことはないんじゃないかなっていう」と語っていた(※1)。「カフェ・ナガクラ」のモデルになった古民家カフェの名前が「サカノシタ」なのも興味深い。人生という名の坂をぜいぜい言いながら登り切り、あとは息を整えながらゆっくり坂を下っていく。千明もそんな人生を思い描いていたのだろうと思う。

ところが、実際に待ち受けていたのはスローライフとはほど遠い日々だった。真平(坂口憲二)という一回り近くの恋人ができ、その双子の姉・万理子(内田有紀)からも恋い慕われる千明。“ジジイ”こと広行(浅野和之)と離婚の危機を迎えた典子(飯島直子)が家に転がり込んでくるわ、和平との言いたいことを言い合える関係を秀子(美保純)や知美(佐津川愛美)に嫉妬されたり、「この年で勘弁してよー」と思うような厄介ごとに巻き込まれたことも。その賑やかで楽しそうな千明の日常を見ていると、人生って何があるかわからないなと思わされる。でも、それこそ千明が頑張ってきた証だ。案外、神様は優しくて、ご褒美を用意してくれているのかもしれない。

特に、今回のシーズンで起こることは「年を取るのって悪くない」の連続だった。真平が病気を克服し、子供の頃に大好きだった“冒険”を再びスタートさせ、万里子は千明のためではなく、自分のために書きたい物語を見つけて巣立ちの時を迎える。それは2人を見守ってきた千明はもちろんのこと、両親を亡くして以降、弟や妹たちの父親代わりを果たしてきた和平にとっても感無量の出来事だったことだろう。さらに、一時期は反抗期で口もまともに聞いてもらえなかった娘のえりな(白本彩奈)から「人としては好き」と告白されるという、親として最上級の幸せを味わう和平。年を取っても、失うものばかりとは限らない。長く生きてきたからこそ得られるものもある。千明や和平が得たものはファーストシーズンから数えて13年間、変わりゆく時代の中をどうにか生き抜いてきた私たちへのご褒美でもあった。





















