『めおと日和』にアラサー筆者がどハマりした理由 芳根京子だから成立したヒロイン像

アラサーが『めおと日和』にどハマりした理由

 なかでも、多くの人が心を掴まれたのは、なつ美が出立する瀧昌に「寂しい」とこぼすシーンではないだろうか。軍人の妻として相応しくあろうと、もうそこまで出かかっている涙が溢れないように瞬きを必死に抑えるなつ美。だが、人間は涙を我慢すると鼻水が出てくるものだ。だから鼻をすするが、ついには涙腺が決壊し、顔を覆う。その一連の動作があまりにリアルで、こちらまで悲しくなるのと同時に「なんていじらしいんだろう」と胸がキュンとした。

 その姿を見つめる瀧昌の心底苦しそうな表情も印象的だ。このドラマがヒットした一つの理由に、原作ではもう少し硬派な瀧昌をコミカルテイストに仕上げた点が挙げられる。特に見飽きないのがその表情。深見(小関裕太)がなつ美のことを「百面相みたいで面白い」と語っていたが、瀧昌もなかなかに百面相である。例えば、第4話では長期間の任務が終わり、なつ美に会える喜びから満面の笑みで帰ってきた瀧昌が、玄関でたまたま遊びに来ていた瀬田(小宮璃央)と鉢合わせに。泥棒と勘違いした瀧昌は般若のような顔になるが、なつ美の無事を確認すると、安堵から情けない表情を見せる。そんなバカ真面目な性格から溢れ出るおかしみを本田が全力で表現してくれていたからこそ、瀧昌は幅広い層の視聴者に愛でられたのではないだろうか。

 しかし、さすがは国宝級のイケメン。本領を発揮した時の威力は凄まじく、たまにのぞく“オスみ”が堪らない。特に酔っ払ったなつ美を自分の膝に座らせた瀧昌が耳元で囁く「酔った……?」は破壊力抜群で、ドラマをリアルタイムで視聴している全員の歓喜の悲鳴が聞こえてくるようだった。でも、やっぱり個人的に一番好きなのは、なつ美の話を聞いている時の瀧昌だ。相槌はいつも「うん」のみだけど、多くを語る必要なんてない。その表情と声のトーンだけで十分、なつ美のことを愛おしいという気持ちが伝わってくる。だから、瀧昌の浮気疑惑が浮上した時も「あんなになつ美のことを愛している人が? ありえない、ありえない」と高みの見物を決め込むことができた。

 サブカップルである“ふかふみ”の存在もまた、このドラマの勝因の一つだ。自分の外見や家柄にしか興味がない女性たちにうんざりしている深見と、幼くして母親に置いていかれた芙美子(山本舞香)はどちらかと言えば、愛を信じられなくなった現代の私たちと近い。傷ついてきたからこそ、人に対して慎重になってしまうのだろう。そんな2人が再び愛を信じられるようになるまでの過程を本作は丁寧に見せてくれた。“ふかふみ”の魅力は互いを弱くしない点にある。世間的には弱さを見せ合える関係が理想とされるが、彼らの場合はそうじゃない。芙美子は好きな人の前ではカッコいい自分でありたい深見の見栄っ張りなところ、深見は山百合のように気高くあろうとする芙美子の矜持を理解し、尊重する。互いのいないところで見せる素の表情もとても素敵だが、無理に相手の全てを知ろうとしない2人の関係はアラフォーの筆者にとっても心地よく感じられた。

 なつ美と瀧昌を見守ってきた柴原邦光(小木茂光)・郁子(和久井映見)夫妻の心温まる馴れ初めエピソードも含め、さまざまな愛の形を見せてくれた本作。彼らを見ていると、果たして自分はどれだけパートナーに思いやりを持って接していられているだろうかと考えさせられた。太平洋戦争前夜の日本が舞台で、いつ相手を失うかわからないという状況が優しさを生む側面もあるだろう。けれど、それは私たちとて例外ではない。事故や病気、災害など、誰もが常に大切な人を失うリスクを背負っている。決して当たり前ではない、愛する人の一番近くにいられる幸せをこのドラマは改めて実感させてくれた。残すところ最終回のみとなったが、どうか誰一人として欠けずに戦争を乗り越えられますように。そしてどうかこのドラマがシリーズ化し、3組の夫婦の終わらない愛を私たちに見守らせ続けてほしいと願う。

『波うららかに、めおと日和』の画像

波うららかに、めおと日和

西香はちによる同名コミックを原作としたハートフル・昭和新婚ラブコメ。昭和11年を舞台に交際ゼロ日婚からスタートする、歯がゆくも愛らしい“新婚夫婦の甘酸っぱい時間”を丁寧に描く。

■放送情報
『波うららかに、めおと日和』
フジテレビ系にて、毎週木曜22:00~22:54放送
出演:芳根京子、本田響矢、山本舞香、小関裕太、小宮璃央、咲妃みゆ、小川彩(乃木坂46)、戸塚純貴、森カンナ、高橋努、紺野まひる、生瀬勝久、和久井映見ほか
原作:西香はち『波うららかに、めおと日和』(講談社『コミックDAYS』連載)
脚本:泉澤陽子
音楽:植田能平
主題歌:BE:FIRST「夢中」
プロデュース:宋ハナ
演出:平野眞
制作協力:FILM
制作著作:フジテレビ
©︎フジテレビ
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