横浜流星は“変わらずに変わっていく” 『べらぼう』蔦重の這い上がる姿に魅了される理由

第23回はまさにその蔦重の変化を描いた回だ。だが、同時にそれを食い止めようとするかのように、演者である横浜流星の身体全体を使って「変わらない」彼の本質を演出して見せたのも第23回だった。事が起こるのは和泉屋(田山涼成)の葬式に参列した吉原の面々が「吉原もん」と蔑まれ、一般の参列者と同じ席にいることを断られた時である。屋根のない場所に座らされ、雨に降られてずぶ濡れになった彼らを見た蔦重は、彼らを見送った後、一人雨の中に立ち尽くす。まるで彼らが感じた悔しさを自分自身のものとして背負おうとでもするかのように。

その後の「父」駿河屋との、階段から突き落とされても這い上がり談判する場面は、これまで幾度も繰り返されてきた「獅子は我が子を千尋の谷に落とす」さながらの親子愛に、親離れ・子離れの儀式も加わって、蔦重が吉原という生まれ育った土地を出る、ひとかたならぬ覚悟を描いた。また、その少し前、雨の中の蔦重の場面からその場面までをひと続きのものとして捉えると、吉原の人々が不当に受け続ける差別という「雨」ごと、もしくは彼らが「吉原もん」として他の人々と異なる場所に座らされた屈辱ごと、蔦重が背負って這い上がっていく姿にも見えてくるのである。

第16回で自身の変化を次郎兵衛から指摘され、蔦重は今までいろんな人に助けられてきたけど何もできてないから「耕書堂を日の本一の本屋にするしか道がねえんでさあ、恩に報いるには」と答えた。第18回の唐丸/歌麿を助け出した時もそうだ。「お前だけじゃなく、誰も助けられなかった」ことを悔い、「お前を助けることで救われんのは俺」と彼は言う。日本橋に店を出そうとする最大の原動力は、源内がつけた「耕書堂」という名前の意味と、育ててくれた吉原への恩返しがしたいという思いゆえだ。
「俺の抱え」こと優れた作家たちや、本作りの職人たち、さらには吉原の主人たちと、愛し愛される大勢の仲間たちとともに、新しい舞台・日本橋に足を踏み入れようとする彼は、今はいない人たち含め、これまで会ってきたすべての人たちへの思いを全部抱いて今日を生きて、明日を見ている。だから視聴者は、そんな主人公の鮮やかな軌跡を、見つめ続けずにはいられないのである。
■放送情報
大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』
NHK 総合にて、毎週日曜20:00〜放送/翌週土曜13:05〜再放送
NHK BSにて、毎週日曜18:00〜放送
NHK BSP4Kにて、毎週日曜12:15〜放送/毎週日曜18:00〜再放送
出演:横浜流星、小芝風花、渡辺謙、染谷将太、宮沢氷魚、片岡愛之助
語り:綾瀬はるか
脚本:森下佳子
音楽:ジョン・グラム
制作統括:藤並英樹
プロデューサー:石村将太、松田恭典
演出:大原拓、深川貴志
写真提供=NHK





















