高橋克実×安達祐実×伊藤淳史×正名僕蔵×山路和弘 『べらぼう』“忘八アベンジャーズ”の魅力

『べらぼう』“忘八アベンジャーズ”の魅力

 NHK大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』において、蔦屋重三郎(横浜流星)を取り巻く吉原の親父たちを、「忘八アベンジャーズ」と呼ぶ声がある。仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌といった八つの徳目を忘れ、女郎たちをこき使い、遊客から金をむしり取る女郎屋の主の“忘八”たち……。その蔑称を逆手に取った呼び名には、彼らの『べらぼう』における存在感が凝縮されている。

 そんな彼らが日本橋に店を構えようとする蔦重のため、そして吉原の未来のため、ついに一致団結して名乗りをあげる。強欲な人間ではない、複雑な心模様を持つ「忘八アベンジャーズ」の面々を改めて紹介したい。

駿河屋市右衛門(高橋克実)

 吉原の引手茶屋の大ボス、吉原を実質的に取りまとめている人物である駿河屋は、忘八アベンジャーズの精神的支柱だ。蔦重を引きずり回して階段から突き落とすのは日常茶飯事、そんな激しい気性は吉原という特殊な世界で生き抜くための強さの表れでもある。

 第8回で見せた地本問屋への逆襲は、まさに“アベンジャーズ”の真骨頂だった。「俺だってあんたらと同じ座敷にいたくねぇんだわ」「覚悟しろ、この赤子面!」と吐き、鶴屋喜右衛門(風間俊介)に吉原への出禁を言い渡したシーンでは、吉原の誇りを守る親父の気概が爆発する。階段から鶴屋を突き落とすという、いつもは蔦重に対して行っている“お仕置き”を逆転させた演出も効いていた。

 「駿河屋は重三に対して厳しく接していますが、表に出さないところで実の息子以上にかわいがっています」という高橋の解釈通り、その厳格さの裏には深い愛情が隠されている。(※)時に暴力的でありながらも、吉原を守るという信念を貫く姿勢が印象的だ。

大黒屋りつ(安達祐実)

 大黒屋の女将として、駿河屋、松葉屋、大文字屋、扇屋らと共に吉原を取りまとめ、蔦重の後見となるりつは、忘八アベンジャーズの“紅一点”。扮装に約2時間かかるという眉のない姿で登場し、女郎屋の女将としての貫禄と愛嬌あふれるキャラクターで物語を彩っている。

 そんなりつは、第11回で吉原における差別の本質を鋭く突いていた。役者が吉原への出入りを禁じられていた理由について「ひんむきゃみんな人なんて同じなのにさ。これは違う、あっちは別って垣根作って回ってさ、ご苦労なもんだよ!」と語る姿は、吉原で生きる者の矜持を体現していた。

 さらには「売れりゃあ騒がれるし千両の給金だって夢じゃない。けどみんなが役者なんか目指したらまともに働くやつなんかいなくなっちまうじゃないか」というセリフは、華やかな世界の裏側を知る者ならではの重みがある。忘八アベンジャーズの中で、最も鋭い洞察力を持つ存在として描かれている。

大文字屋市兵衛(伊藤淳史)

 新興勢力の女郎屋“大文字屋”の主で、経費削減のため、女郎に安いカボチャばかり食べさせたことから“カボチャ”のあだ名を持つ大文字屋。第1回で「女郎なんか、カボチャでも食わせておけばいいんだ!」と毒づき、蔦重にカボチャを投げつける姿は、まさに“悪役”そのものだった。

 しかし第12回の俄祭りでは、若木屋(本宮泰風)との踊り対決で吉原への愛着を見せた。自分が上に立ちたいという思いだけではなく、吉原を良くしたいという思いでぶつかり合う、単なる金の亡者ではない一面が垣間見える。

 第19回で病に倒れて退場したかと思われたが、第21回では二代目・大文字屋市兵衛としてカムバック。初代とは「全くタイプが違う」「雰囲気マイルド」な二代目として登場したが、第23回では新たな顔を見せた。抜け荷の話題に触れた瞬間、穏やかだった二代目が豹変し、初代を彷彿とさせる迫力で激怒する場面からは、大文字屋のDNAが確実に受け継がれていたことがわかる。

 表面的には柔和になったように見えても、利益に関わることとなれば、忘八としての本性が現れる。この二面性こそが、忘八アベンジャーズの新メンバーとして彼の魅力を際立たせている。

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