渡辺翔太のスター性は“瞬間的”な能力にあり 『なんで私が神説教』最終回後も続く余韻

渡辺翔太のスター性は“瞬間的”な能力にあり

瞬間的に表情を仕上げる才能とスター性

 本作が誇る熱血漢・浦見光史上最も慎ましい「おはよ」が聞こえた中盤の出勤場面に話題を戻そう。同日、退勤しようと校舎を出た静の元に浦見が駆け寄る。この時、下手箱近くの入り口ドアを開ける静に追いつこうとする浦見を捉えるロングショットが、出勤場面のハイポジションに対してローポジション(ややローアングル)になっていることも見逃せない。低いポジショニングの画面上を走る渡辺が少しだけ息をもらす。次のカットで学園は大丈夫なのだろうかと内心不安な静に対して浦見が「きっとうまくいきますよ」と励ます。いつものように根拠がないポジティブ発言だと思った静が立ち止まり、「何を根拠に言ってるんですか」と返す。台詞終わりでカットが替わる。するとどうだろう。いつもならすっとんきょうな顔をして、悪口を褒め言葉として受けとるような浦見が、これまでとはひと味違う微笑みを浮かべるではないか!

 出勤場面同様、この退勤場面でも画面は静寂そのもの。それが微笑んだ浦見きっかけでそっと一音が鳴る。静寂と緊張。それをきゅっと緩めるように浦見が微笑む瞬間、渡辺翔太が画面上に吹き込むさりげない名演の風を僕は感じた。静かな緊張が持続していた画面をきゅっと緩め、さっと風を吹かせる。この極めて周到で、手際よく、さりげない名演、ただその一点をきらめかせ、視聴者をときめかせる渡辺翔太。コーラを飲む横顔と微笑みにサンドされた中盤の出勤場面での控えめな「おはよ!」は、本作最終回クライマックスへと助走をつける退勤場面までの揺るぎない通奏低音に他ならなかった。

 あぁ、我らがしょっぴー(渡辺翔太の愛称)は、最終回のここぞという瞬間まで最高の表情を温存してくれていたのである。思えば、浦見光役とは、癖が強いキャラクター性を声高に主張しているかに見えて、その実、役を演じる渡辺は常に役柄の核心をうまく見え隠れさせていた。第1話、静が初出勤する朝の電車場面での渡辺は、カメラの前進と後退移動の間で、印象的な声色を余韻とするばかりで、まるでエキストラかと思わせるぎりぎりの存在感におさまっていた。

 前進移動という類似でいうなら、Huluオリジナル配信作品『なんで私まで神説教!?』第1話「浦見光の神説教」では、主演俳優である渡辺に対してカメラが寄る印象的な場面がある。職員室の自席で考え込む浦見を捉えるカメラがまず後ろ姿にズーム、次のカットで正面にズーム。ズームアップが2度繰り返された後の3カット目、神説教をするための原稿をスマホに書き込む、そのやわらかな表情は非の打ち所がない。

 渡辺翔太という人は、思いがけず瞬間的に表情をきちんと仕上げることができる才能の持ち主だと僕は思う。それは、自分が今どのようにフレーミングされているのかを脊髄反射的に把握できる、俳優としての優れた能力であるばかりか、これが渡辺翔太なんだと誰の目にも明らかな形で固有の世界観を提示できる稀有なスター性(スター性とは大衆的なわかりやすさの代名詞である)なんだと結論付けておきたい。

『なんで私が神説教』の画像

なんで私が神説教

『となりのナースエイド』『イップス』などのオークラが脚本を手掛ける、進学校を舞台とした完全オリジナル作品。他人と本音でぶつかり合えない大人たちに送る新たな学園ドラマ。初の教師役となる広瀬アリスが主演を務める。

■配信情報
『なんで私が神説教』
TVer、Huluにて配信中
出演:広瀬アリス、渡辺翔太(Snow Man)、岡崎紗絵、野呂佳代、小手伸也、伊藤淳史、木村佳乃、堀内敬子
脚本:オークラ
演出:内田 秀実、南雲聖一ほか
チーフプロデューサー:荻野哲弘
プロデューサー:藤森真実、白石香織(AX-ON)
音楽:横山克
制作協力:日テレアックスオン
©日本テレビ
公式サイト:https://www.ntv.co.jp/kamisekkyou/
公式X(旧Twitter):https://x.com/kamisekkyo_ntv
公式Instagram:https://www.instagram.com/kamisekkyo_ntv
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