小泉今日子はいつの時代も私たちに力をくれる 稀代のアイドルが“老い”を体現する意義

小泉今日子はいつの時代も私たちに力をくれる

 「この薄汚ねえシンデレラ!」と初の連続ドラマ主演作『少女に何が起こったか』(TBS系)で謎の刑事に罵られてから40年。今、彼女は『続・続・最後から二番目の恋』(フジテレビ系)で60歳を目前にした迷えるテレビドラマプロデューサーを演じている。

 小泉今日子。“花の82年組”の1人としてアイドルデビュー後、俳優、アーティスト、文筆家、プロデューサーなど、肩書にとらわれず時代とともに歩んできた彼女の連続ドラマ出演作にフォーカスしながら、稀代のアイドルがドラマ内である種の“老い”を体現することについて考えてみたい。

 『続・続・最後から二番目の恋』(フジテレビ系)で小泉が演じる吉野千明は地上波キー局のドラマ制作部ゼネラルプロデューサー。2012年の『最後から二番目の恋』から13年がたち、2014年の『続・最後から二番目の恋』からは11年がたった。

 相変わらず、隣家に住む長倉和平(中井貴一)との関係はつかず離れずだし、現場ではドラマのプロデューサーとして予算管理に頭を悩ませつつ、後輩を鼓舞し鼓舞され、和平の妹・万理子(内田有紀)を脚本家として自分のもとから巣立たせようとしている。そこには前の二作と変わらず、悩みながら迷う千明の姿がある。

 変わって、2024年放送され大きな反響を呼んだ『団地のふたり』(NHK BS)で小泉が演じたのは大学の非常勤講師でバツイチの太田野枝(通称:ノエチ)。年老いた両親と団地で暮らしながら、幼なじみの奈津子(通称:なっちゃん/小林聡美)の部屋に入り浸り、収入も安定しないアラカン女性だ。

 両親の介護問題や毎日勃発する団地内でのトラブルやアクシデント、親友・なっちゃんとの友情や小さな諍い、不意に現れた初恋の人との再会など、ノエチは半径5メートルで起こることをさばきながら、団地内の若手住人として住民たちの手助けに奔走する。

 ドラマ制作現場の最前線に立ち、つねに流行の服をまとって最新のメイクで夜の街にも出かける千明と、髪にも服装にもメイクにもお金をかけず、夜遊びなどせず、なっちゃん手作りのご飯を食べる時間が至福のノエチ。一見、リンクする点がまったくなさそうなふたりだが、じつは共通項がある。

 それは、60歳という節目の年齢が見えてきた今、千明もノエチもありのままの日々を受け容れ、少しだけ諦めながら、でも前を向くことをやめない人生を歩んでいること。

 ふたりとも知っているのだ。自分の人生に驚くようなシンデレラストーリーやとてつもない一発逆転劇がもう起きないことや、可能性と呼ばれるアレコレがどんどん減っていくことを。

 この、完全に諦観するでも、強力に抗うのでも、落ち込んで膝を抱えるわけでもないまろやかな“老い”の状況を、時代のトップランナーとして80年代から君臨し続けた小泉今日子が体現することに何ともいえない説得力がある。大人でも迷っていいし、立ち止まってもいい。年を重ねたって自然に賢く穏やかな人になれるわけでもない。あなたはあなたのままでいいじゃない。千明やノエチというドラマの登場人物を通し、小泉自身からそんなメッセージが発せられているようだ。

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