『あんぱん』『ブギウギ』『虎に翼』も 朝ドラが描いてきた“赤紙”と戦争に向かう男たち

『まんぷく』(2018年度後期)の立花萬平(長谷川博己)は、二度赤紙を受け取っている。モデルとされている日清食品の創業者・安藤百福の経験通りのようで、一度目は、受け取ったものの、憲兵隊の拷問の後遺症により免役となっている。二度目に受け取ったのは、太平洋戦争末期の疎開先で、萬平は「やはりまた来ましたか」と静かに受け止め、覚悟を決める様子を見せる。一方、妻の福子(安藤さくら)は「今戦地に駆り出される兵隊さんは、みんな生きて帰れない」と聞いていて、不安と悲しみに襲われる。
ところが翌朝、萬平は激しい腹痛に襲われ、医師から「治るかどうかは五分五分」と告げられる。姑の鈴(松坂慶子)は、萬平が仮病を使っているのではないかと疑うが、彼の苦しむ姿を見て、神社でお百度参りをする。そのおかげもあってか、萬平は一時的に回復して入隊することになるのだが、適性検査で不適格と判断されて戻ってくる。現代の感覚では、「ラッキー」ということになりそうなものだが、この時期、男たちが次々と軍隊に招集され、戦っていたことを考えれば、萬平の心は穏やかではなかった。萬平は「皆、お国のために働いているのに、それなのに僕は……」と自責の念に駆られ、今でいう“サバイバーズギルト”に苛まれることになる。
仲野太賀が『虎に翼』に刻み込んだ言葉と想い 優三の演技に泣いて笑った2カ月間
佐田優三(仲野太賀)がこの世界からいなくなった。寅子(伊藤沙莉)の人生において大切な存在であり、ずっとそばにいてほしかった、ずっ…そして、近年、最も印象的だったのは、やはり『虎に翼』(2024年度前期)の佐田優三(仲野太賀)のシーンだろう。主人公の寅子(伊藤沙莉)は優三と結婚し娘を産んだが、そのことが原因で弁護士の仕事を諦め、無念を抱えている時期だった。そのタイミングで、優三に赤紙が届く。川べりで二人きりで話をすることになり、寅子は「自分が弁護士として出世したいばかりに優三さんの優しさにつけ込んで結婚して、でもすぐやめて、優三さんに甘えて子ども作って……」と、謝罪の言葉を口にする。しかし優三は「はて?」と寅子の真似をして笑う。そして、「寅ちゃんが後悔せず、心から人生をやり切ってくれること。それが僕の望みです」と優しくもキッパリとした言葉を残す。出征当日には、お互いに変顔をして無理やりに口角を上げて笑い合う。優三は「行ってきます!」と戦地へ赴き、帰らぬ人となった。
現代では、家庭の事情を鑑みない転勤命令すらも人道的でないと言われるが、この頃は、どんな事情も容赦なく、市井の人々にランダムに、まるでくじ引きのように赤紙がきた。それは死へと直結する知らせであったのにも関わらず、表立って「嫌だ」とも「辛い」とも言えず、「名誉」だとして喜ばなければならないという理不尽。そして、赤紙が来ても徴兵検査に合格しなかった時の「不名誉」という負い目の大きさ。もはや現代人には想像すらできないレベルの責任だ。愛する妻や小さな子どもを置いて戦地へ赴く男たちの気持ち、涙を堪えて「ばんざい」と送り出した人たちを思うと、ドラマで何度描かれても、その悲しみには慣れることがない。

『あんぱん』では、これから戦局はどんどん悪くなる。赤紙は、インク不足のため、ピンク色から白色になったともいう。学徒出陣が始まり、柳井嵩(北村匠海)、千尋(中沢元紀)にも赤紙が来る時が迫っている。心して、見届けたい。
参考
https://realsound.jp/movie/2025/05/post-2025025.html
■放送情報
2025年度前期 NHK連続テレビ小説『あんぱん』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00〜8:15放送/毎週月曜〜金曜12:45〜13:00再放送
BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜8:15〜9:30再放送
BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:今田美桜、北村匠海、加瀬亮、江口のりこ、河合優実、原菜乃華、細田佳央太、高橋文哉、中沢元紀、大森元貴、二宮和也、戸田菜穂、浅田美代子、吉田鋼太郎、竹野内豊、妻夫木聡、阿部サダヲ、松嶋菜々子
音楽:井筒昭雄
主題歌:RADWIMPS「賜物」
語り:林田理沙アナウンサー
制作統括:倉崎憲
プロデューサー:中村周祐、舩田遼介、川口俊介
演出:柳川強、橋爪紳一朗、野口雄大、佐原裕貴、尾崎達哉
写真提供=NHK























