『あんぱん』の物語と繋がるRADWIMPS「賜物」 歌詞に込められたやなせたかしの哲学

『あんぱん』の世界観と繋がる「賜物」の歌詞

 NHK連続テレビ小説『あんぱん』の放送が始まって早2カ月。放送開始時、テンポの速さやメロディラインの目まぐるしい変化がこれまでの朝ドラ主題歌の曲調と異なることから、SNSでは「馴染めない」「しっくりこない」という声もあったRADWIMPSによる主題歌「賜物」。2カ月間毎朝聞くことで愛着が湧いてきたという人も多いのではないだろうか。

 ここで改めて、RADWIMPSの野田洋次郎が書いた歌詞と『あんぱん』の内容とのリンクについて考察していきたい。

 まず、歌詞全体から歪で一筋縄ではいかないこの世界で生きることの嘆きと喜びを語りたいという意図が感じられる。オープニングでも使用されている〈涙に用なんてないっていうのに/やたらと縁がある人生/かさばっていく過去と/視界ゼロの未来/狭間で揺られ立ち眩んでいるけど〉は、父・清(二宮和也)の死をきっかけに馴染みのない御免与町に引っ越すことになり、寂しい思いをしていた柳井嵩(北村匠海)の感情を想起させ、朝田のぶ(今田美桜)視点から考えても幼い頃に父を亡くした時の大きな悲しみが感じ取れる。また、広い意味で考えれば、昭和初期という戦争から逃れられない時代に、流さなくていい涙を流さなければならなかったあの時代を生きる人々の嘆きとも捉えられる。物語全体にある悲しみを表現するパートだろう。

 そもそも時代が変わろうと常に幸福感と充足感を味わいながら生きていくことは難しい。愛する人が死ぬことへの悲しみ、理不尽な目に遭うことへの悔しさからはどんな時代も逃れられない。〈人生訓と経験談と占星術または統計学による/教則その他、参考文献 溢れ返るこの人間社会で/道理も通る隙間もないような日々だが/今日も超絶G難度人生を/生きていこう/いざ〉の部分は、より早口になるパートで、なおかつ体操競技の専門用語である“G難度”というひねった言葉を使用していることからも、ドラマ『あんぱん』が語る“生きることの嘆きと喜び”が時代を超える普遍的なテーマであることを伝えようとする狙いが感じられる。ドラマの内容においては、今後描かれることになる漫画家になった嵩とそれを支えるのぶの苦労の方がリンクするのかもしれない。

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