『べらぼう』福原遥演じる誰袖は史実ではどんな人? 瀬川との“悲劇”の共通点も

瀬川と鳥山検校をモデルにした洒落本『契情買虎之巻』

瀬川は松葉屋の名跡で、ドラマに登場する五代目・瀬川は彼女を身請けした鳥山検校の名から、鳥山瀬川とも呼ばれる。
瀬川の身請けについては、大田南畝『半日閑話』や幕末維新期の文人・斎藤月岑の『武江年表』に記載がある。身請料は諸説あるが1500両と伝わる。この身請け話は江戸中の話題となり、2人を題材にした戯作や芝居が作られた。
鳥山が検挙された1778(安永7)年の田螺金魚(たにしきんぎょ)による洒落本『契情買虎之巻』は悲恋物語で、のちに人情本(庶民の恋愛小説)の祖と再評価された名作である。
《あらすじ》「吉原の遊女瀬川は、亡き夫によく似た五郷と愛し合うようになるが、盲人の鳥山検校が巨額の身請金で強引に瀬川を落籍してしまう。五郷と引き裂かれた瀬川は、検校の屋敷で男児を産み、命を落とす」
また、江戸の小咄「据風呂」の主題もこの2人である。
「裕福な盲人に身請けされた女郎が、贅沢なガラス細工の風呂を取り寄せた。涼しげだが外から裸が丸見えだ。これではずっと前を押さえておらねばならない」(しかし相手は盲人なので見えないはず、というのがオチ……鳥山への悪意しか感じない)
鳥山は、1779(安永8)年に追放となった。瀬川はその後、武家の妻となり2人の子を産んで寡婦となったのち、大工と再再婚したなどの話が伝わる(真偽不明)。晩年まで注目され続けたのかもしれない。
当代一の遊女2人に愛されたいい男=蔦重という世界観
五代目・瀬川や誰袖の身請話は実際にあったことで、以下の共通点があった。
・1000両を超える巨額の身請料
・3年の短い結婚生活
・夫が罪に問われて追放もしくは処刑
一方、彼女たちと蔦重との関係はドラマの中でのフィクションである。蔦重は江戸のメディア王として絶大な存在感を放つが、結婚していたかどうかもわかっていない(ドラマでは今後、妻が登場する予定)。
史実において、蔦重は吉原をバックに出版業界に新風を巻き起こした。江戸の出版文化に彼が残した功績は大きい。彼は体制への反骨精神をもち、周りの人々を味方につけた。天性の「人たらし」だった彼のもとには男女問わず多くの人が集まったのだ。
そんな蔦重の魅力を表現するのに、遊女を極めた花魁たちに愛されたという描写は最強である。
瀬川の「重三はわっちの光だった。こんな男と出会えるなら、吉原に来るのも悪くなかったと思えるほど」という言葉は象徴的だ。瀬川と誰袖、表に見える気性こそ違えど、蔦重に寄せる想いは同じだろう。
これから、誰袖と蔦重の関係に変化はあるのか? 大文字屋の「蔦重による誰袖の身請けを許す」一筆はどう効するか?
主要参考文献
『江戸の旗本たち: 墓碑銘をたずねて』河原芳嗣著
『日本古典文学全集・黄表紙『文武二道万石通』(朋誠堂喜三二)』校注:棚橋正博(小学館)
『大吉原展』東京藝術大学大学美術館・東京新聞編(東京新聞。テレビ朝日)
『蔦屋重三郎と江戸文化』伊藤賀一著(Gakken)
『世界大百科事典』(平凡社)
『日本大百科全書 ニッポニカ』『日本国語大辞典』『大辞泉』(小学館)
『日本人名大辞典』(講談社)
『国史大辞典』(吉川弘文館)など
■放送情報
大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』
NHK総合にて、毎週日曜20:00〜放送/翌週土曜13:05〜再放送
NHK BSにて、毎週日曜18:00〜放送
NHK BSP4Kにて、毎週日曜12:15〜放送/毎週日曜18:00〜再放送
出演:横浜流星、小芝風花、渡辺謙、染谷将太、宮沢氷魚、片岡愛之助
語り:綾瀬はるか
脚本:森下佳子
音楽:ジョン・グラム
制作統括:藤並英樹
プロデューサー:石村将太、松田恭典
演出:大原拓、深川貴志
写真提供=NHK






















