『エンジェルフライト』は“今を生きる”ことを教えてくれる 古沢良太の秀逸な“死”の描き方

『エンジェルフライト』が描く“生と死”

 さらに、それらの要素に加え、NHK大河ドラマ『どうする家康』においても印象的だった古沢良太脚本の、「死」の場面を通して、その人の人生そのものを照らす手法が見事に組み合わさった。第1話では、父の背中を追い続けた、優しい若者が駆け抜けた日々を。第2話は、それぞれの人生の節目を目前に命を落とした人々が抱いていたのだろう思いを、遺された人々が抱える三者三様の思いを通して描いた。第3話は何より、幼なじみ2人(菅原大吉、井上肇)の友情と人生の軌跡を辿る中で生じる思わぬ反転に驚かされるとともに、彼らの人生を通して、彼らが生きた「時代」を目の当たりにした。

 日々、死者を送り、悲しむ遺族に寄り添う仕事人たちにも、抱えている人生がある。第1話終盤、那美のそばに、幻のようにそっと寄り添った向井理演じる足立幸人とは何者なのか。それが明かされる時、太陽のように明るい彼女が抱える癒えない痛みの正体がわかるのかもしれない。「母さま」宛のメールを何度も書き綴っては消す凛子もまた、母・塔子(草刈民代)とちゃんと向き合うことができずにいる。凛子が働き続ける理由として「死について知りたくなったのかもしれません」と答えたように、私たちは「死」をどこか遠い存在だと思っている。なぜならそう思いたいからだ。身近な人の死も、自分自身の死も、できることなら考えたくはない。だからこそ、「死」が「すぐ隣にある」彼ら彼女たちの物語を通して、私たちは改めて「死」を思い、生きている「今」を思わずにはいられないのである。

■放送情報
土曜ドラマ『エンジェルフライト』(全6話)
NHK総合にて、毎週日曜22:00〜22:51放送
出演:米倉涼子、松本穂香、城田優、矢本悠馬、野呂佳代、織山尚大、鎌田英怜奈、徳井優、草刈民代、向井理、遠藤憲一ほか
脚本:古沢良太(1・3・6話)、香坂隆史(2・4・5話)
原作:佐々涼子『エンジェルフライト 国際霊柩送還士』(集英社文庫)
音楽:遠藤浩二
プロデューサー:後藤高久(NHKエンタープライズ)
監督:堀切園健太郎(NHKエンタープライズ)
制作:NHKエンタープライズ
写真提供=NHK

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