“さとこ”桜井ユキが“終の住処”を手にいれる 『しあわせは食べて寝て待て』が描く住居問題

かたや、唐はさとこの暮らしぶりを目の当たりにして安心したようだ。ここにいれば、体調面で不安があっても誰かが気にかけてくれるし、お金がなくても少しの工夫とご近所さんからのおすそ分けでどうにか食いつないでいける。今のさとこにとっては理想的な場所に思えるが、未来はどうなるか分からない。
築40年を超える団地は排水管が錆びたり、階段がひび割れたりと、老朽化に伴って様々な問題を抱えていた。そのため、大規模修繕が行われることになるが、耐震診断は見送られ、地震大国の日本では不安が残る。もし将来的に建て替えになったら、住民が追加で費用を出さなければならないかもしれない。かつ、さとこが暮らす団地にはエレベーターがなく、今は良くても年齢を重ねて階段の上り下りが困難になる可能性もある。そういった問題を補う住民同士の助け合いも、人によっては負担に感じることもあるだろう。「いろんな面倒を引き受けてでも、ここに住みたいと思えるかどうか」と司に言われ、どうするべきか迷うさとこ。

そんな中、出会ったのが、同じ団地で気ままで豊かな暮らしを送る志穂美(宮崎美子)だった。志穂美は“ウズラ”という名前でSNSにスーパーの見切り品で作った本格イタリアンの写真を投稿しており、さとこも熱心なフォロワーの一人。そのSNSを紹介された青葉は「50代からの女性の一人暮らし」をテーマにした本の企画で志穂美にアポを取り、さとこも同行することに。ところが、SNSでの誹謗中傷をきっかけにうつ病を発症した過去がある志穂美は「静かな生活を送りたい」と取材を断るのだ。
今の社会では苦手を克服し、新たなことにチャレンジする人が賞賛される。その価値観に則れば、本の企画で取材されるなんてなかなか経験することではなく、フォロワーも増やすチャンスなのにもったいない気がしてしまう。でも、志穂美は数字にこだわっているわけではない。女手一つで育て上げた息子たちが独立し、ようやく手に入れた、24時間を自分のためだけに使う生活を彼女は満喫していた。SNS投稿もただ自分が楽しいからやっているだけ。根っからのロック少女で、一人を哀れむ世間の声も跳ね除けて自分の心のままに生きる志穂美はカッコいい。
桜井ユキがなぜ画期的な主人公なのか 『しあわせは食べて寝て待て』の真摯な病気の描き方
スタート以来、良作を生み出し続けているNHK夜22時からのドラマ放送枠、「ドラマ10」。何度かの改編を経て2010年より掲げてい…「一人」と「独り」は異なる。かつては休みの日に昼寝から覚めると、世界に置いてけぼりにされたような気がしていたさとこ。だが、今は隣のベランダから聞こえてくる鈴と司の声が寝起きのさとこを包んでくれる。「一人」だけど、少なくとも「独り」ではない。世間の常識や価値観から離れ、そんな団地に住み続けたいと心から望むことができたさとこは鈴の申し出を引き受けるのだった。病気を機にマンション購入の夢を諦めたさとこにも、ようやく終の住処が見つかったと思った矢先、何も聞かされていない鈴の娘(池津祥子)が団地を訪ねてくる。次回は司に出会う前の鈴の過去も明らかになりそうだ。
■放送情報
ドラマ10『しあわせは食べて寝て待て』
NHK総合にて、毎週火曜22:00~放送
出演:桜井ユキ、宮沢氷魚、加賀まりこ、福士誠治、田畑智子、中山雄斗、奥山葵、北乃きい、西山潤、土居志央梨、中山ひなの、朝加真由美
原作:水凪トリ『しあわせは食べて寝て待て』
脚本:桑原亮子、ねじめ彩木
音楽:中島ノブユキ
演出:中野亮平、田中健二、内田貴史
制作統括:小松昌代(NHK エンタープライズ)、渡邊悟(NHK)
写真提供=NHK























