『あんぱん』は“軍国主義”的ヒロインをどう描く? 歴代の朝ドラヒロインとの違いを考察

たとえば、2018年度後期の朝ドラ『まんぷく』は、夫・萬平(長谷川博己)に二度の召集令状が届くものの、憲兵に捕まった際の負傷が響き、身体検査の段階で不合格となる。男子は祖国のために戦い、女子は「産めよ、殖せよ」と国力増強のために子どもを求められる時代に、兵役にも就けず、子作りも進まない萬平たちは肩身が狭くなる中、ヒロインの福子(安藤サクラ)は「戦争に行かなくとも、お国の役に立てることはきっとあります」「私は萬平さんに生きていてほしい。誰になんと言われようとあなたには生きていてほしいの」と、夫を励ましつづけた。
『まんぷく』は時代が求めた朝ドラだったーー「天才」を支える仕事に込められた大きなロマン
3月30日放送分で、好評のうちに幕を閉じたNHK連続テレビ小説『まんぷく』。 ヒロイン・福子役の安藤サクラ、夫・萬平役の長谷…2011年度後期の『カーネーション』の糸子(尾野真千子)は、幼なじみの勘助(尾上寛之)が召集された際、名誉だと祝福するものの、数カ月後に届いた勘助からの頼りが黒く塗りつぶされていたことに憤る。当たり前のように広がる軍国主義の空気に、疑問を抱く姿が描かれていた。
戦争に抗うのはヒロインたちだけではない。2023年度後期の『ブギウギ』での、ヒロイン・スズ子(趣里)の弟である六郎(黒崎煌代)の出征では、「行って参ります」と告げる六郎に、馴染みのおばちゃんが「“参ります”はあかんで。生きて帰るつもりに聞こえるらしいわ。ワテの息子も“行きます”言うて行ったんや」と釘を指すものの、父・梅吉(柳葉敏郎)は人目も憚らず、涙を流しながら黙って息子を抱きしめる。従来の強い父親像と相反する姿は、その時代の空気を映すとともに、当時可視化されなかった人々の想いを紡ぐ朝ドラを象徴するシーンだった。
『ブギウギ』が問い続けた“エンタメは誰のためにあるのか” スズ子が最後に対峙する“時代”
残すところあと5話となった朝ドラ『ブギウギ』(NHK総合)の中で、最も印象的だったのは、ヒロイン・スズ子(趣里)の父・梅吉(柳葉…けれど、将来戦地に身を投じる子どもたちを教育する立場を目指すのぶは、ますます軍国主義の波に呑まれていくのだろう。第6週が描くのは昭和12年(1937年)。女子師範学校での学びは残すところ一年となった。ラジオからは盧溝橋事件の一報が流れ、いよいよ日中戦争の足音が近づいている。釜次(吉田鋼太郎)の弟子・豪(細田佳央太)に赤紙が届き、それまでどこか他人事だった戦争が、にわかに現実味を帯びてくる。私たち視聴者は、のぶの姿を通して、時代の厳しさを痛感することになるだろう。

一方、東京で絵を学ぶ嵩(北村匠海)の日常は、いまだ微笑ましい。しかし、戦争経験はモデルであるやなせたかしの人生に多大な影響をもたらすことになる。激動の時代の中、のぶと嵩の人生は、どのように交わってゆくのだろうか。
■放送情報
2025年度前期 NHK連続テレビ小説『あんぱん』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00〜8:15放送/毎週月曜〜金曜12:45〜13:00再放送
BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜8:15〜9:30再放送
BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:今田美桜、北村匠海、加瀬亮、江口のりこ、河合優実、原菜乃華、細田佳央太、高橋文哉、中沢元紀、大森元貴、二宮和也、戸田菜穂、浅田美代子、吉田鋼太郎、竹野内豊、妻夫木聡、阿部サダヲ、松嶋菜々子
音楽:井筒昭雄
主題歌:RADWIMPS「賜物」
語り:林田理沙アナウンサー
制作統括:倉崎憲
プロデューサー:中村周祐、舩田遼介、川口俊介
演出:柳川強、橋爪紳一朗、野口雄大、佐原裕貴、尾崎達哉
写真提供=NHK
























