『あんぱん』は“軍国主義”的ヒロインをどう描く? 歴代の朝ドラヒロインとの違いを考察

『あんぱん』は軍国主義的ヒロインをどう描く

「私らみんなで兵隊さんを応援しゆう気持ちを伝えたいので」

 現在放送中のNHK連続テレビ小説『あんぱん』第6週「くるしむのか愛するのか」にあった主人公・のぶ(今田美桜)のセリフに、思わずゾッとした。唯一の取り柄といえば体力だけで、劣等生扱いされているのぶが、第6週ではクラスメイトから拍手を浴びている。その変わりようは、気が進まない縁談を断るために女子師範学校を目指し、泣き虫だったのぶの親友・うさ子(志田彩良)を彷彿させた。

 亡き父・結太郎(加瀬亮)に「女子も大志を抱きや」と言われながらも、自分のやりたいことがイマイチわからなかったのぶ。やがて小学校の先生になるという夢を持ち、家庭に入らず、学びの道を選び取る姿は、昨今の朝ドラヒロインらしい展開だ。しかし、女子師範学校での日々は、想像していたキャンパスライフとは大きく違った。入学初日、のぶたちの新生活は、担当教師のこんな一言で幕を開ける。

「皆さんには、日本婦人の鑑たるべき女性教師になっていただきます。覚悟はできていますか?」

 “日本婦人の鑑たるべき女性教師”とは一体なにを意味するのか。その答えは、のぶたちの過酷な日々の中で明らかになっていく。礼節を重んじる先輩たちとの共同生活もさることながら、最も影響を与えたのは、軍国主義の教師・黒井雪子(瀧内公美)だ。

「これからの日本婦人は温順貞淑なだけではいけません。 一旦国家が非常時となったら、男は勇躍戦場へ、女も決然としてあらゆる道で祖国のために尽くさなければならないのです」(第23話)

「あなたは己に負けたのです、信念のない己に負けたのです。(中略)愛する祖国のために全身全霊で尽くす心がないから負けたのです」(第25話)

 現時点で黒井のバックグラウンドは描かれていない。なぜ彼女がここまで軍国主義を強く信奉するようになったのかは不明だが、黒井は時代の空気感そのものを体現した存在だと言える。なぜそうなったのかではなく、そうなるのが「当たり前」の時代なのだ。

 冒頭ののぶのセリフにショックを受けたのは、白を一瞬にして黒へと塗り替える軍国教育の現実をまざまざと突きつけられたと同時に、ヒロインののぶ自身が、歴代の朝ドラが描いてきた“戦争に抗う人々”とは違う存在に映ったからだろう。家族や知り合いに赤紙が届いた際、表向きは「おめでとうございます」と言葉をかけながらも、内面には戸惑いや戦争へのやりきれなさを抱く。その姿には戦争を拒む作り手たちの祈りがこめられてきた。

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