韓国の“離婚ドラマ”は日本とは全く違う? 『離婚保険』に至るまでの描き方の変化

韓国の“離婚ドラマ”は日本とは全く違う?

「離婚にも備えが必要」

 たしかに病気や災害のように人生で起こるアクシデントに対応する保険があるように、離婚というリスクにそなえた保険があってもよいはずだ。Prime Videoで配信中の『離婚保険』は、こんな独創的かつアクチュアルな発想の韓国ドラマだ。

 発案者で保険数理士ノ・ギジュン(イ・ドンウク)はバツ3。ギジュンの親友でリスク鑑定人アン・ジョンマン(イ・グァンス)も離婚経験者だ。保険引受人カン・ハンドゥル(イ・ジュビン)は夫のモラハラに苦しめられ離婚したばかりで、チーム長のナ・デボク(キム・ウォネ)は妻に離婚を突きつけられて目下関係修復に躍起となっている。さらに、離婚保険プロジェクトを成功させるため専務に抜擢された金融数理学者のチョン・ナレ(イ・ダヒ)は、ギジュンの初婚相手だった。

 みな数字に強く、リスクヘッジに長けたエリートだが自身の人生の危機を防ぐことはできなかった。そんな面々を反面教師に、損害査定士のチョ・アヨン(チュ・ソジョン)は、非婚主義を心に誓っていたりする。本作には離婚保険が正式にリリースされるまでのチームの悪戦苦闘、恋愛、友情などエンタメ要素が満載だが、メインには至って真摯な人生への眼差しがある。

 社会派ネタをコメディやラブストーリー、サスペンスなどエンタメに仕立て上げるのが上手い韓国ドラマでは、これまでも離婚をテーマにした秀作が生まれていた。統計庁によると、2024年の離婚件数は9万1000件で前年比1.3%(1000件)の減少。人口1千人当たりの離婚件数は1.8件で、前年と同様だったが、離婚件数そのものは若干の減少となったが、日本の1000人当たり1.57人と比較するとやや多いという結果になっている。

 映画『ミナリ』で韓国人俳優初のアカデミー賞助演女優賞を獲得したユン・ヨジョン。すでに映画やドラマで活躍していた1987年に離婚した際、「離婚した女性がテレビに出るのはよくない」などと言われた。特に女性にとって“恥”とされた離婚だったが、次第に離婚を経験した女性、韓国で“トルシンニョ”(帰ってきたシングル女性)の描かれ方が徐々に変化していく(※2)。これまでひた隠しにして静かに暮らすべきとされていた女性が、そうした社会の色眼鏡に負けることなくタフに生きている姿で現実のトルシンニョたちを応援したり、あるいは2021年から3シーズン続いたドラマ『結婚作詞 離婚作曲』のような、不倫や浮気、離婚危機の中で女性たちが激しく争うドラマが生まれる。

 こうした作品が2015年辺りから5年ほどの間で特に増え始めているのも、配偶者以外と関係を持った男女を処罰する姦通罪の廃止という韓国の法改正が影響しているのかもしれない。しかし、男女双方の不貞行為を対象にしていながらも、家父長制の強い韓国社会では実際ほぼ女性ばかりが処罰されたという悪法は廃止されても、女性に対する風当たりの強さは残った。2023年の『離婚弁護士シン・ソンハン』は、自身の不倫で仕事と親権を奪われた女性ラジオDJの再出発を、彼女を担当した弁護士がそっと促していく作品だった。“不倫”と一括りに言ってしまうが、そこに至るまでの背景がある。それを「自業自得」と切り捨てて良いのだろうか。一人一人の人間にまつわるドラマを取りこぼさないそんな眼差しがいかにも韓国映画らしかった。

 離婚ドラマの系譜について日本に視線を向けてみると、現代に入りホームドラマブームが一旦落ち着いたのち、2011年の東日本大震災により共同体の結びつきが見直され強調されたことによって家族もの夫婦ものが増えたが、再び揺り戻されるように家族の危機ものとしての離婚ドラマが誕生した中でのシリーズだった。その後、大石静と宮藤官九郎の共同脚本作『離婚しようよ』(Netflix)に至るように、離婚を悲劇的に描かずペーソスを込めたコメディとして描く流れが生まれている。

『最高の離婚~Sweet Love~』予告編 | ポニーキャニオン WE LOVE K

 日韓における離婚ドラマの違いは、坂元裕二脚本の大ヒット作『最高の離婚』(フジテレビ系)のオリジナル版とリメイク版との比較が分かりやすい。「結婚は愛の完成形なのか?」という問題提起をしつつ、結婚、家族に対する男女の考え方の違いをコメディタッチで描き、ファンの多い坂元節全開のセリフも忠実に再現されるなど似た作りだった。二組のカップルの悲喜劇にフォーカスしたことで夫婦の有り様を掘り下げたオリジナル版へリスペクトを捧げたうえで、韓国版『最高の離婚〜Sweet Love〜』は全20話という破格のエピソード数を利用し、群像劇のように周辺キャラを丁寧に掘り下げた。人間の数だけ幸と不幸それらに対する多様な回答があるという作り手の思いが読み取れた。

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