多部未華子は“負い目”を感じる主婦たちの救世主だ 元主婦誌編集者が見た『対岸の家事』

元“主婦誌編集者”が見た『対岸の家事』

 主婦誌で人気のあったテーマは「お金をかけずに豊かに暮らす」というものだったが、それは、社会の役に立っていないのではという「負い目」を少しでも軽減する行為だったのかもしれない。無駄なお金をなるべく使わず、公園や児童館などを使って子どもと遊ぶこと、外食をなるべく避けて自炊すること、日々を大切に丁寧に暮らすことで、社会から取り残されている自分に価値を持たせていたのかもしれない。実際、稼ぎがない主婦たちにとって、節約こそがお金を産む行為ではある。詩穂が、あさりの砂抜きをし、作り置きをするのは、お金を稼いでいない「負い目」を振り払い、自分自身の存在を価値のあるものにするための奮闘であるように見える。

 一方、仕事をしながらワンオペ育児をしている礼子の暮らしは過酷だ。詩穂のように料理をする暇はないし、丁寧な暮らしなどできるわけもない。今度は、家事が後回しになることが、主婦としての自分への「負い目」になり、自分自身を追い詰めていく。社会的にワンオペ育児の無理ゲーが認知されてきてはいても、根本的な解決策は未だ見出されていないのが現実だ。

 「家事しかやっていない」と「家事すらできない」。いずれにしても「負い目」を感じることになる主婦たち。専業と兼業の2人の主婦の苦悩に、「家事」というものの厄介さが見事に表現されていた。

「たかが家事じゃないですか、手抜いたっていいんです。何とかなります、元気でさえいれば……」

 詩穂のこのセリフは、そんな「負い目」を感じる必要はないという、高らかな宣言だった。ちなみに、詩穂は、元主婦誌編集者から見ると、優等生すぎる専業主婦である。もし見つけたら、家事のコツを取材しに行くレベルだし、見た目の美しさも相まって、きっとカリスマ主婦として人気者になってしまうであろう。現実の専業主婦は、もっと子どもに翻弄され、心の闇も肥大化して、家事を完璧にするどころか、部屋の中はしっちゃかめっちゃかになりがちだということも付け加えておきたい。専業主婦だからといって、みんなが詩穂のようにできるわけではない。

 「たかが家事、されど家事」。誰もがやらなくてはならないことなのに「仕事」ではないからと見過ごされてしまう。かつての主婦誌では、それを主婦の枠の中だけで解決しようとしていたが、女性が働くことによって、その問題はようやく社会的に顕在化したように思う。「家事」は、男女問わず、避けられない重要テーマとして、スポットライトが当てられることにこそ意味があるのだと感じている。

 次回からは妊活がテーマになりそうだが、ここにもさらに深い闇があるはず。このドラマからまだまだ目が離せない。

参照
※ https://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/r04/zentai/index.html

『対岸の家事~これが、私の生きる道!~』の画像

火曜ドラマ『対岸の家事~これが、私の生きる道!~』

朱野帰子による小説『対岸の家事』を原作としたヒューマンドラマ。専業主婦の主人公・詩穂が、生き方も考え方も正反対な「対岸にいる人たち」とぶつかり合いながら、自分の人生を見つめ直していく模様を描く。

■放送情報
火曜ドラマ『対岸の家事~これが、私の生きる道!~』
TBS系にて、毎週火曜22:00~22:57放送
出演:多部未華子、江口のりこ、ディーン・フジオカ、一ノ瀬ワタル、島袋寛子、田辺桃子、松本怜生、川西賢志郎、永井花奈、寿昌磨、吉玉帆花、五十嵐美桜、朝井大智、中井友望、萩原護、西野凪沙
原作:朱野帰子『対岸の家事』(講談社文庫)
脚本:青塚美穂、大塚祐希、開真理
プロデューサー:倉貫健二郎、阿部愛沙美
演出:竹村謙太郎、坂上卓哉、林雅貴
編成:吉藤芽衣
製作:TBSスパークル、TBS
©TBS
©朱野帰子/講談社
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/taigannokaji_tbs/
公式X(旧Twitter):@taigan_tbs
公式 Instagram:taigan_tbs
公式TikTok:@taigan_tbs

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