『いつか、ヒーロー』に込められた脚本家・林宏司の“願い” 泉澤祐希に胸を締め付けられる

『いつか、ヒーロー』脚本家・林宏司の願い

 夢を抱いた経験がない大人はいないと思う。だって、わたしたちは小さい頃から幾度となく聞かれてきた。「将来の夢は、なんですか?」と。人は誰しも、何者かになれるのなら、なりたいと思っているはず。わたし自身も、ずっとその気持ちが拭えなかった。たとえば、芸能人や文化人、スポーツ選手などの努力は、多くの人から「すごいね」と称賛される。でも、わたしが日常でしている努力は、誰にも褒めてもらえない。それがなんだか虚しくなって、「誰かに褒めてもらうためには、何かすごいことを成し遂げるしかないのだ」と思った経験がある。

 だから、『いつか、ヒーロー』(ABCテレビ・テレビ朝日系)第2話でスポットが当たった野々村光(泉澤祐希)の気持ちが痛いほどよく分かるのかもしれない。児童養護施設『希望の道』にいた頃、野々村は「海外リーグのサッカー選手になりたい」と語っていた。でも、そんな大きな夢を叶えられるのは、ほんのひと握りの選ばれし人間だけ。わたしは、サッカー選手を目指した経験があるわけではないが、「一度くらい、メッシになりたかったなぁ」とつぶやいたときの野々村の表情に、ギュッと胸を締め付けられた。

 メッシにも、普通の人だった時代がある。たとえば、初めてサインを求められたときや、出待ちのファンが増えてきたとき。メッシは、その一つひとつに感動していたはずだ。でも、今はメッシが現れると、当たり前のように多くのファンが歓声をあげる。そして、みんなが手を出し、彼からのサインをねだるのだ。もちろん、すべてに対応することはでないので、メッシは小さい子どもの色紙を受け取り、サインをしてあげる。すると、その動画が「メッシ、神対応!」とバズりまくるのだ。

 野々村はその光景を見て、「なんで俺じゃないんだよ。俺だったらさ、いくらでもサインするのに。何枚でもサインするのにって。なんで、俺のサインは誰もいらないんだよって。なんで、俺は誰にも待たれてないんだよ」と悔しくなるらしい。求められる側の人間にも、彼らにしか分からない苦悩があるのは分かる。でも、なんとなく夢を叶えた人たちの苦悩は、夢に敗れた人の苦悩よりも、ストーリーとして成り立つというか……。大手を振って「自分、辛いです~!」と言える感じがしてしまうのだ。これは、ひと握りの人間になれなかった側の人間だからこそ、感じることなのだろうか。

 しかし、たとえメッシになれなかったとしても、わたしたちは生きていかなければならない。

 なぜか、「希望の道」のメンバーたちを自殺に追い込もうとする謎の男・氷室海斗(宮世琉弥)は、「日本の若者は、みんな死滅回遊魚(=本来の生息地ではない場所に流されていき、環境に適応できずに死んでしまう魚)だ」と言っていた。すでに、渋谷勇気(駒木根葵汰)を自殺に追い込んだ氷室の次のターゲットは、野々村。「お前は、望まれたのか? 誰かに一度でも。いいんだ。よく頑張った。今まで、冷たい水のなかでひとりで。もう十分泳いだよ」と言い、野々村に毒入りのカプセルを渡した。

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