『ナタ 魔童の大暴れ』日本での緊急公開はなぜ実現したのか? 配給担当が明かす裏事情

『ナタ 魔童の大暴れ』日本版公開なぜ実現?

——中国の子供たちはこの現象をどう受け止めていますか?

安:私が小学生だったころはまだ日本のアニメが中国でもゴールデンタイムに流せる時代だったので、『セーラームーン』や『スラムダンク』『犬夜叉』などを観て日本のアニメに憧れていました。我々くらいの世代が日本のアニメ好きの第一世代で、この世代の人たちがクリエイターになったときに「憧れの作家に挑戦してみよう」「彼らより優れた作品を作ろう」という思いがあったからこそ、近年の映像作品が生まれていると思います。でも、今の中国の子どものたちは要するに「中国産」のアニメ映画を観て育つ第一世代なので、一部の層を除いては日本アニメの影響という意識がないまま受け入れているのだと思います。また、我々は『封神演義』の世界を歴史の教科書で学んだり、ドラマで描かれるのを観たりして学んできましたが、実際に起きた革命を元にしている以上、基本的に悪役がはっきりしているんですね。それから大人になるにつれて、あるいは歴史研究が進むにつれて一概にどちらが正しいかとは言い切れないと学んできました。でも今の子供たちは『ナタ 魔童の大暴れ』などのアニメで初めてこの世界に出会うので、相対主義的な価値観に早いうちから触れているんです。ソーシャルメディアの浸透で日々あらゆる立場の意見に触れていますし、物語に対する理解が我々とはまるで違うと思います。

——おもしろい現象だと思います。

安:一方で、中国だけへの影響に留まらないためにはやはり我々のような配給の努力が必要になってきます。毎年世界の人気IPランキングが発表されますが、トップ20の中には中国のIPは一つもなくて、50位以内にようやく一つか二つあるくらいです。それも結局中国の人口数に依存しているものなので、それこそ任天堂のキャラクターやポケモン、ディズニーやマーベル、DCなどには敵いません。一つの国だけで受け入れられているだけでは、どんなに経済規模が大きくてもグローバルIPとしては成立はしないと思っています。でも本当にいいコンテンツには世界共通に受け入れられるものがぜったい存在するはずなので、「文化輸出」と言うと政治的に聞こえてしまうかもしれませんが、コンテンツが本当に伝えたいメッセージや世界観をグローバルに広めたいと思っています。たとえば『陳情令』という中華BLが日本ですごく流行っていますが、その作品の舞台の歴史はいつなのか? と気になった視聴者が自然とWikipediaなどに日本語で書き込むんですね。コンテンツに紐付いている文化や歴史に興味を持ってもらうことはすごく大事なことで、似たような形で『ナタ 魔童の大暴れ』の背景にある神話も広めたいと思っています。偶然ですが『封神』も『ヨウゼン』も同じ『封神演義』の世界観を元にしているので、たとえば『ヨウゼン』が好きなら『ナタ 魔童の大暴れ』にも興味を持てるし、背景にある歴史や世界観を深掘りしたら一つのスーパーヒーローワールドが広がっているんです。

——中国版MCUのようなものですね。

安:その通りです。登場人物一人ひとりのストーリーが作れるので、『ヨウゼン』も『ナタ 魔童の大暴れ』も言ってしまえば『封神演義』という一つの作品のスピンオフなわけです。『西遊記』も同じ世界の物語なので、孫悟空もこの宇宙に引き込めるんですよ。日本で人気のファンタジーというと『指輪物語』的な舞台が当たり前になっていますが、同じアジアの国なわけですから、中国と日本の神話の世界観には共通するものが多いはずなんです。日本でも十分に理解されることだと思いますので、多くの人が興味持っているところを切り口として、誰もが受け入れやすい状況を作っていきたいですね。

■公開情報
『ナタ 魔童の大暴れ』
全国公開中
監督:ジャオズ(餃子)
キャスト:リュ―・イェンティン(呂艶ティン)、ジョンセンセフ(ジョン森瑟夫)、ハンモー(瀚墨)、チェン・ハオ(陳浩)、リューチー(緑綺)、チャン・ジャーミン(張珈銘)、ヤン・ウェイ(楊衛)、ワン・デーシュン(王徳順)ほか
原題:哪吒之魔童鬧海、英題:NeZha2
2025年/中国/144分/5.1ch/カラー/シネスコ/映倫:G
配給:面白映画
プロデュース&製作:可可豆動画 彩条屋影業
公式サイト:nezha2.jp
公式X(旧Twitter):@nezha2_JP

 

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