『全修。』は何を描き、何を“修正”したのか? アニメに“救われた”者を再び救う

『全修。』は何を描き、何を修正したのか?

 第11話はタイトル通り“絶望”を描くと同時に、“希望”とは何かを力強く語っている。現在のナツ子が天才アニメーターとして背負う重積。“かかなければいけないのに、かけない”ことの苦しさ。異様にまで伸ばし、顔を隠す長い前髪は他者への拒絶を意味し、それが今度は自分に向けられる。そうして自分が他者にどのように振る舞っていたのかを知るナツ子。しかし、場面は変わり、転校してしまう同級生に描いたルークの絵が取り沙汰される。それは彼女の中で明確に「誰かに絵を褒められた」大切な記憶だ。しかし、それすらズタズタに裂かれてしまう。唯一の取り柄である「才能」やそれに対する「自信」を無くしたナツ子は、ぐちゃぐちゃ線に囚われてしまった。“挫折”を視覚的に明確に、そして味深く描くシークエンスだ。

 しかし、そんな彼女を船の中から救ったのが、ユニオの「お前の絵が好きだ」というシンプルだが強い一言だった。そこで『滅びゆく物語』を初めて観た時のことを思い出すナツ子。そこから『滅びゆく物語』やルーク・ブレイブハートというキャラクターが彼女にとってどれほど意味深く、ずっとずっと一緒にいてくれた存在なのかが描かれる。感情表現豊かに描かれるこの一連の場面は、彼女と同じように好きなものを抱き締め続けてきた、それのおかげで立ち続けることができた者に向けられたものだ。ナツ子とともに、私たちも“初恋”を思い出す。そして、それが世界と自分を救う鍵になることを知るのだ。

TVアニメ『全修。』 第12話「全修。」予告 / “ZENSHU” #12 Preview

 第12話で「超空洞ヴォイド」を倒したルークが、ナツ子が“トゥンク”した時のルークの姿である演出も良い。物語はナツ子という作品ファンの二次創作としてハッピーエンドを迎える。元の監督である鶴山亀太郎はそれを安易な選択として批判し、「ハッピーエンドだけがエンタメだと思うなよ」と吐き捨てて飛び去った。監督の言い分も、もちろんそうだ。実際、幼きナツ子も鬱エンドだった『滅びゆく物語』が好きだったのだから。しかし、「時にはそれでも良い」を答えとして、本作とナツ子は導き出した。「かきつづけること」の苦しさなども実直に描きつつ、しかしそれ以上に初恋……“トゥンク”が生きる糧であること、そのことを思い出すことの重要性やそこから得られる人間的成長にメッセージを置く作品として、温かい魅力溢れる作品だった。

■放送情報
『全修。』
テレ東系列ほかにて、毎週日曜23:45~放送
キャスト:永瀬アンナ(広瀬ナツ子)、浦和希(ルーク・ブレイブハート)、釘宮理恵(ユニオ)、鈴木みのり(メメルン)、陶山章央(QJ)
原作:山﨑みつえ、うえのきみこ、MAPPA
監督:山﨑みつえ
脚本:うえのきみこ
キャラクター原案・世界観設定:辻野芳輝
キャラクターデザイン・総作画監督:石川佳代子
総作画監督:高原修司、早川加寿子、住本悦子
副監督:野呂純恵
美術監督:嶋田昭夫
色彩設計:末永絢子
撮影監督:藤田健太
編集:武宮むつみ
音楽:橋本由香利
音響制作:dugout
キャスティングマネージャー:谷村誠(サウンド・ウィング)
アニメーションプロデューサー:小川崇博
制作:MAPPA
©全修。/MAPPA
公式サイト:https://zenshu-anime.com/

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