ホロ苦さの残る青春映画 “ここから”を予感させる『ANORA アノーラ』の忘れがたいラスト

『ANORA アノーラ』はホロ苦さ残る青春映画

 職業に貴賎なしと言うが、実際にはそうではない。特に周りの目を気にする大金持ちから見たとき、アノーラは切り捨てられる存在なのだ。いかにアノーラが力強く啖呵を切っても、その現実はどうしようもない。決着がついたあと、アノーラは怒り、悔しがり、悲しむが、同時にこれまでと違う人との触れ合い方を見せる。必要以上の慣れ合いは拒否する。かと言って完全に孤立するまではいかない。宙ぶらりんなまま、ただ今の自分自身の置かれた状況を知るのだ。このシーンは悲しくて辛いが、同時に「ここから」を予感させる。アノーラの人生は終わったわけではない。まだ「ここから」がある、と。もちろん、その先が明るいか暗いかも分からないが……。この落とし所が、本作を単なる意地の悪いアンチ・シンデレラストーリーで終わらない作品にしていた。

 もちろん、気になる箇所もある。アノーラのパワフルなキャラ性のおかげで成り立っているが、中盤の手下に暴行を受けるシーンは、冷静になるとシャレにならない状況であるし、ギャグとして出されているが額面通りに受け取っていいのか、戸惑うシーンが多い。とはいえ、アノーラのパワフルさと、ホロ苦くも忘れがたいラストシーンは、一見の価値があると言える。あとt.A.T.u. の「All the Things She Said」が流れるので、世代的には嬉しいものがあった。あれ、いい曲ですよね。どうしてもドタキャンのイメージが強いのですが、あれは曲もPVも良かったです。早くt.A.T.u.みたいな感じの人たちがまた世界的にやっていけるような、平和な時代になってほしいものです。

■公開情報
『ANORA アノーラ』
全国公開中
出演:マイキー・マディソン、マーク・エイデルシュテイン、ユーリー・ボリソフ、カレン・カラグリアン、ヴァチェ・トヴマシアン
監督・脚本・編集:ショーン・ベイカー
製作:ショーン・ベイカー、アレックス・ココ、サマンサ・クァン
配給:ビターズ・エンド ユニバーサル映画
2024年/アメリカ/カラー/シネスコ/5.1ch/138分/英語・ロシア語
©2024 Focus Features LLC. All Rights Reserved. ©Universal Pictures
公式サイト:anora.jp
公式X(旧Twitter):@anora_jp

関連記事

リアルサウンド厳選記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「作品評」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる