蓮佛美沙子×永作博美の抱擁は“愛”そのものだった 『バニラな毎日』が届けた幸せのあり方

タイプが違うようで似たもの同士な白井と秋山(木戸大聖)の間にゆっくりと育まれた恋も本作の見どころのひとつだった。秋山は、お菓子に真剣に向き合う白井の表情をきっかけに恋に落ちていったよう。その後秋山は、ラブレターを送ったり、月夜でなくても「月が綺麗ですね」と言ったりとかなりストレートに白井にアプローチしていたのだが、白井がその方面に興味がなさすぎてまったく通じていなかった。そんな白井が秋山を少し意識し出したのは、自分で作った音楽を全身全霊で伝えようとする秋山の姿を見たからだった。

自らの思いをお菓子や音楽に込めていく表現者でもある2人は、言葉や行動のような直接的なものより、その作品から感じ取るものが多いのかもしれない。最終回でも意識しているが、恋人というよりは肩を寄せ合うような優しい雰囲気をまとっていた白井と秋山。少なくとも秋山には、すぐそばにある手を取り合って、一緒に一歩を踏み出す「いつかの未来」が見えているような気がした。

“お菓子の神様”のイタズラか、事故に遭い、右手が不自由になってしまった白井。パティシエにとってはとても致命的だ。しかし、それによって白井にとって「譲れないもの」が「上質なお菓子を提供すること」から「お菓子を作ること」という、より本質的なものに変化したのではないだろうか。もう「パティスリー・ベル・ブランシュ」にいる白井に会うことはできないかもしれないが、ふわっと甘いバニラの香りに包まれた厨房にいる白井の“バニラな毎日”が幸せであることを願ってやまない。
■配信情報
夜ドラ『バニラな毎日』
NHKプラス、NHKオンデマンドにて配信中
出演:蓮佛美沙子、木戸大聖、土居志央梨、伊藤修子、和合由依、中島ひろ子、谷村美月、筒井真理子、永作博美ほか
原作:賀十つばさ『バニラな毎日』『バニラなバカンス』
脚本:倉光泰子
音楽:jizue
主題歌:SUPER BEAVER「涙の正体」
制作統括:熊野律時
プロデューサー:二見大輔
演出:一木正恵、安達もじり、押田友太、影浦安希子
写真提供=NHK