『おむすび』が真正面からコロナ禍を“再現”した意義 何よりも大切にしたい心のつながり

朝ドラでコロナ禍を描くのは4度目である。『おかえりモネ』(2021年度前期)『カムカムエヴリバディ』(2021年度後期)『舞いあがれ!』(2022年度後期)、そして『おむすび』。実際のコロナ禍から時間が経過するほど描写が微細になっていき、『おむすび』の第23週「離れとってもつながっとうけん」では医療の現場が当時どうだったか再現された。同じく現代劇である『ちむどんどん』(2022年度前期)ではコロナ禍の時期はぼかされている。
院内ではグリーン、イエロー、レッドとゾーンをビニールカーテンで仕切り、出入りする者を厳密に分けていたことや、子どもや免疫力の低い家族のために仕事を辞める者がいたことなど、感染者と接する者の複雑な心情を見て、改めて、当時、医療従事者のかたがたの深刻な状況を思い、感謝の気持ちを新たにした。

コロナ禍が収束し、マスクするもしないもその人の自由に任されるようになって、街や電車のなかでマスクをしてない人もだいぶ増えたいま(2025年)、コロナ禍で何があったか振り返る時期に来ているのかもしれない。例えば、6月には、コロナ集団感染が発生した悲劇の豪華客船ダイヤモンド・プリンセスでの災害派遣医療チームの活躍を描く映画『フロントライン』の公開が予定されている。
2025年は、コロナ禍のみならず、阪神・淡路大震災から30年、戦後80年と周年記念が目白押しで、震災や戦争を振り返る企画も目にすることが少なくない。コロナから何年と区切りをつけられるほど時間は経過してはいないが、ラジオが放送されてから100年でもあって、マスメディアがどうあるべきか再認識する番組も少なくないなかのひとつの題材としてはうってつけである。戦争や災害があったこと、そのとき人々はどうだったかを描いたドラマを観るにつけ、マスメディアとして、世界を、社会を、正しく伝えていく責任について考えているように感じる。『おむすび』を含め、様々な番組の意義とは、歴史を学ぶことであり、かつ未来に備えることでもある。

さて、『おむすび』である。結(橋本環奈)は、高齢者のための弁当づくりをきっかけに、菜摘(田畑志真)の勤務するコンビニの会社に入らないかと声をかけられ、迷っていた。そんなときにコロナ禍がはじまって、それどころではなくなってしまうが、花(宮崎莉里沙)が学校で医療従事者は「コロナまみれ」と意地悪を言われたり、聖人(北村有起哉)ががんサバイバーとして免疫が低く、感染が心配であったりして、結は転職することが心をよぎる。実際、家庭を優先し病院から去る者も少なくなかったからだ。結果的に、結はいまの仕事を大事にしていて、辞めないことを決意する。誰かがやらなくてはいけない仕事なのだ、と語る同僚の桑原(妃海風)の覚悟が胸に染みた。