異世界転生は“社会的弱者”だけのものではなくなってきた? ジャンル拡大で起きた変化

異世界転生ジャンル拡大によって起きた変化

誰を異世界に飛ばすかのアイディア合戦

 そうした中で、2025年冬クールに放送中の異世界アニメは、転生者が公務員のおじさんである『悪役令嬢転生おじさん』、戦隊シリーズの主人公が転生する『戦隊レッド 異世界で冒険者になる』、天才アニメーターが自分の好きだったアニメの世界に入り込む『全修。』など、一風変わった属性の人々を異世界に送り込んでいる作品が目立つ。

TVアニメ『悪役令嬢転生おじさん』第2弾PV

 これらの主人公は生前培ったスキルや経験を、異世界の舞台で活かすことで活躍している。『悪役令嬢転生おじさん』の主人公は、50代の公務員だが、その年まで勤めて培った対人コミュニケーション能力や気配りで、悪役令嬢ながら抜群の好感度を獲得していく。乙女ゲームの世界と公務員のおじさんの組み合わせの妙味がこの作品の持ち味となっている。

 『戦隊レッド』はヒーローとしての変身能力をそのまま持ち込んで異世界の悪や魔物との戦いに身を投じていく。戦隊特撮と異世界転生、2つのジャンルを組み合わせるとどうなるかという、こちらも組み合わせの面白さを売りにした作品だ。『全修。』もまた、アニメーターの絵で命のないものをゼロから生み出すという能力を、異世界に持ち込むという点に面白みがある。

 3作品とも、現世で持っていたスキルをそのまま異世界に持ち込むことで、特異な力としているのが共通点で、一般的にイメージされてきた異世界転生ものの主人公の典型とは異なっている。

 こうした作品を観ていて思うのは、転職して業界を変えた時に感じる感慨だ。前職での経験が他の業界で意外に重宝されたりすることがあるように、世界が変われば何でもないと思っていた自分の能力が輝くことがあるのだろう。とりわけ、公務員という身近な存在を主人公にした『悪役令嬢転生おじさん』にそうした想いを抱かせる要素が強い。『全修。』のアニメーターの能力を召喚魔法になぞらえるアイディアなどは、アニメーターの動きを作る能力の凄さを再確認できるものとなっているし、『戦隊レッド』は特撮戦隊ものの荒唐無稽な魅力の再発見にもなっている。

『全修。』の奇想天外な世界観から目が離せない アニメーターの“全修力”を描く異質な試み

アニメーターにとって禁忌の言葉をタイトルにしたTVアニメが始まった。その名も『全修。』という作品で描かれるのは、若くして監督とな…

 現実に希望を抱けない人の現実逃避と言われがちだった異世界転生ものだが、これらの作品ではそうした要素は後退し、シンプルに転生というアイデアの活かし方を考えた末のものに思える。異世界ジャンルの成熟とコモディティ化で、多彩なアイデアの果てに生まれたものと言えるだろう。これらの異色の組み合わせで、従来の異世界転生とは異なる魅力の物語を生み出していると言える。

 こうした傾向は、2024年の作品にも見られる。例えば、心中したがりの文豪が異世界転生する『異世界失格』や、DCコミックスのヴィランたちを任務で異世界に飛ばす『異世界スーサイド・スクワッド』など、異世界のイメージから遠いキャラクターたちを転生させて、意外な組み合わせから生じる面白さを描く作品が増えてきている。

TVアニメ『異世界スーサイド・スクワッド』本PV

 これらの事例は、ジャンルとしての異世界ものが、コモディティ化の果てにさらなる発展を遂げていることの証明だろう。今後は、どんな意外な組み合わせが出てくるだろうか。

■放送情報
『全修。』
テレ東系列ほかにて、毎週日曜23:45~放送
キャスト:永瀬アンナ(広瀬ナツ子)、浦和希(ルーク・ブレイブハート)、釘宮理恵(ユニオ)、鈴木みのり(メメルン)、陶山章央(QJ)
原作:山﨑みつえ、うえのきみこ、MAPPA
監督:山﨑みつえ
脚本:うえのきみこ
キャラクター原案・世界観設定:辻野芳輝
キャラクターデザイン・総作画監督:石川佳代子
総作画監督:高原修司、早川加寿子、住本悦子
副監督:野呂純恵
美術監督:嶋田昭夫
色彩設計:末永絢子
撮影監督:藤田健太
編集:武宮むつみ
音楽:橋本由香利
音響制作:dugout
キャスティングマネージャー:谷村誠(サウンド・ウィング)
アニメーションプロデューサー:小川崇博
制作:MAPPA
©全修。/MAPPA
公式サイト:https://zenshu-anime.com/

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