『のび太の絵世界物語』は“ドラえもん愛”あふれる傑作だ よみがえった“藤子・F・不二雄感”

『のび太の絵世界物語』に感じるドラえもん愛

 宇宙なり地底なり過去の世界なり、これまでもドラえもんたちの冒険先は多々バリエーションがあったけれど、こうしたかたち(道具を通してたどり着いた場所を媒介して)で時空を越えるというのもなかなか珍しいパターンであろう。そもそも家のリビングで絵を描いていたのび太の頭上に時空ホールが現れ、絵画の切れ端が落ちてくる発端、突発的に別の時空とつながるあたりは、布団の下に敷いた畳が宇宙船の入口になった『映画ドラえもん のび太の宇宙開拓史』を想起させる、過去作に通じたエッセンスといえよう。

 細かいところでいえば、終盤の強敵との対決で石化する点は『映画ドラえもん のび太の夢幻三剣士』の竜のシーンを連想させるし、超空間での銃撃は『映画ドラえもん のび太の恐竜』、のび太たちが世界を救ったことが記録として残される点は『映画ドラえもん のび太の大魔境』の“10人の外国人”の言い伝えと通じるものがある。それ以上に過去の名作を思い出させてくれたのは、やはりラストの一連である。詳しくは書けないが、今作と同じ寺本幸代監督が以前リメイク版を手掛けた『映画ドラえもん のび太の鉄人兵団』の、あの素晴らしいラストシーンからさらに一歩踏み込んだような展開が待ち受けている。要するに、今回登場するクレアという少女は“第二のリルル”といったところである。

 全方位に満遍なく向けられた卓越した脚本と、真正面からの“ドラえもん愛”があふれた今作は、まるでF先生がよみがえったのかと思ってしまうぐらい『映画ドラえもん』の真髄を見せつけてくれる一本。45周年・44作目でこれだけの作品ができるならば、向こう十数年は期待をもって迎えられる作品がつくられつづけるに違いない。数年後には世界トップの多作シリーズとなり、その先に“50作目”という大きな節目も見えてきている。願わくは、どこかで『ガラパ星からきた男』を本格的にやってもらいたいものだ。

■公開情報
全国公開中
『映画ドラえもん のび太の絵世界物語』
キャスト:水田わさび(ドラえもん役)、大原めぐみ(のび太役)、かかずゆみ(しずか役)、木村昴(ジャイアン役)、関智一(スネ夫役)、和多田美咲(クレア役)、種﨑敦美(マイロ役)、久野美咲(チャイ役)、鈴鹿央士(パル役)、藤本美貴(アートリア王妃役)、伊達みきお(サンドウィッチマン)(アートリア王役)、富澤たけし(サンドウィッチマン)(評論家役)
原作:藤子・F・不二雄
監督:寺本幸代
脚本:伊藤公志
主題歌:あいみょん「スケッチ」(unBORDE/WARNER MUSIC JAPAN) 
挿入歌:あいみょん「君の夢を聞きながら、僕は笑えるアイデアを!」(unBORDE/WARNER MUSIC JAPAN)
配給:東宝
©藤子プロ・小学館・テレビ朝日・シンエイ・ADK 2025
公式サイト: https://doraeiga.com/2025/
公式YouTubeチャンネル: https://www.youtube.com/user/DoraemonTheMovie
公式X(旧Twitter): https://x.com/doraeiga

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