『星がウワサするから』“不発”のままにするのはもったいない 観る価値十分の“無重力”描写

『星がウワサするから』は、SNSのフォロワー数が韓国俳優の中で最も多いイ・ミンホと、視聴率不敗神話をもつコン・ヒョジンが初めて共演する、韓国初のスペース・オフィスドラマだ。『パスタ~恋が出来るまで~』の脚本家ソ・スクヒャンと『サイコだけど大丈夫』の演出家パク・シヌが、『嫉妬の化身~恋の嵐は接近中~』以来、8年ぶりにタッグを組んだ。制作費50億円、制作準備期間5年をかけたという。
つまり、かなりの期待作であったわけだが、現在、苦戦が伝えられている。韓国のケーブルテレビ局tvNでの視聴率は1~3%台止まり、同時配信されたNetflixでも韓国以外の国でほぼランキングに入らないという状況。これまでも韓国SF作品はいい成績を残せていなかったが、ここまでの要素をそろえてもやはり難しかったか……。
と、思う人も多いだろうが、これが蓋を開けてみると、意外や意外、新鮮な内容で面白い。本作のキャッチコピーは、「通勤距離20万km。私たちは、毎日宇宙ステーションに出勤する」である。“スペース・オフィスドラマ”と謳っているように、高尚なテーマを設けたSF作品ではなく、宇宙という空間を日常の延長線上に描いた、これまでにない韓国ドラマなのだ。
物語の主な舞台となるのは、宇宙ステーション。そこで働く宇宙飛行士(研究者)たちと、700億ウォン払って宇宙に来た財閥家に婿入り予定の産婦人科医の出来事がユニークに描かれていく。宇宙飛行士のリーダーをコン・ヒョジン、宇宙ステーションの異質な存在である産婦人科医をイ・ミンホが演じるが、この産婦人科医が単なる旅行者ではなく実は密命を帯びているという点がドラマのポイントになる。財閥家会長に、亡き息子の精子を宇宙で秘密裏に人工授精させるよう命じられているのだ。
何といっても本作がユニークなのは、そんな宇宙ステーションでの出来事がずっと無重力の中で展開されていくこと。人と人が会話するときはもちろん、殴り合うとき、手を消毒するとき、寝るとき、本を読むとき、果ては人工授精も……。「無重力ではこうなるのか!」と、観ていてワクワクハラハラしたのは筆者だけだろうか。
本当に浮いているかのように見えるこうしたシーンは、無重力が体験できる特別な施設で撮影されたわけではなく、手作業とCG、俳優たちの演技力によって実現したものなのだという。不自然さのない見応えのある無重力シーンで、これを観るだけでも本作を観る価値がある。
イ・ミンホとコン・ヒョジン演じる主人公カップルの恋愛にも、この無重力という設定が効いている。2人のラブストーリーの物足りなさが視聴率低迷の一因にもなっているようだが、無重力の中でのラブシーンは奇抜だが斬新だった。韓ドラ界の歴史に残るのではないか。また、個人的に観ていて気になったのは、こうした無重力空間が恋愛感情にどう影響するのかということ。もしかしたら、吊り橋効果的なものが醸成されることが想定されているのかもしれない。そう考えながら観ると、劇中の2人の心の動きが印象深く映る。